10 ― 触れる海月の骨

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「ま、俺は優秀じゃないから」 さっきまでと変わらない軽い口調だった。 だけど、もうこれ以上は触れない方がいいということは、彼をよく知らないわたしでもわかった。 さっきまで笑っていたはずの目に、静かに影が落ちる。 短い沈黙。それを埋めるように詩優さんは口を開いた。 「この後さ、本屋つき合ってくれない?」 「本屋?」 「いまヤクザ物の漫画にはまっててさ。俺、漫画とか小説はぜったいに紙で買うって決めてるの。ゆきりんは?」 「わたしも同じかな。電子書籍って、なんか苦手で。場所をとらなくていいとは思うけど」 「そう、それ。周りからは嵩張(かさば)らないから電子の方がいいよ、って言われるんだけど、どうも俺は駄目なんだよな。 右手でページをめくって、左手側のページが少なくなってきてさ。 続きが読みたい、だけど読み終えたくない、ってジレンマを抱えながらページをめくるのが好きで。 あと、紙とインクなのかな。本の匂いも好きで」 「わかる。わたしも好き」 「だよな。いいよな。俺、嗅いじゃうもん」 「わたしも」 うんうん、と頷いて、自分が前のめりになっていることに気づいた。 軽く咳払いしてから姿勢を正し、わたしは小さなガレットをちびちびと食べ進めた。
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