10 ― 触れる海月の骨

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「俺からゆきりんへの推薦課題図書。あげるから読んでよ」 「え、待って。あげるって言われても」 「大丈夫、大丈夫。ぜったい、おもしろいから。ゆきりんもハマるって」 「そういう問題じゃなくて」 「あ、カード一括でお願いします」 詩優さんはカウンターにどさりと単行本を置いた。 ぐらぐらと高く積まれた単行本は、店員の慣れた手つきで次々とスキャンされていく。 いくら単行本だって、これだけあったらけっこうな額になる。 気軽に受け取れるようなものではない。 「本当に、受け取れない」 きっぱりと言い切った。 それでも詩優さんはペースを崩さない。 「いいんだよ。俺が読んで欲しいんだから。 ゆきりんは読んで、感想聞かせてよ。人に貸して布教してくれてもいいし」 ふと思い出す。マットレスの話をしたときの、あの(ひと)を。 「なんか、邑木さんと似てる」 「え、俺と兄さんが?」 「うん。似てると思う」 そっか、と詩優さんは短く返した。 単行本を包んだ大きな紙袋がカウンターに二つ並ぶ。 おずおずとわたしが手をのばすと、詩優さんが二つとも手に取った。
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