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二階に上がって自室のドアを閉め、倒れるようにベッドに突っ伏せば、ため息は無限にこぼれた。
仕事を辞めて家にこもりがちなわたしを、母が心配しているのはわかる。だけど母のわたしへの触れ方は、どうにもしんどい。心配してくれる人を煩わしいと思うことが贅沢だとはわかっていても、頭で考えるよりも先に、躰がしんどいとわたしに訴えてくる。
つまり、合わないのだ。
なにがいいとか悪いとかではなく、母とわたしは人と人として、合わないのだ。
ベッドに寝転がってぼうっとしていると、チャイムが鳴った。廊下をパタパタと走る母の足音。玄関の扉がギイッと古めかしい音を立て、他人の気配が滑り込む。
あ、どうもどうも。おじゃまします、お義母さん。これ、よかったら。うちの母がお義母さんに、って。うちの地元の名物で――。
ああ、また来た。
妹の夫である石井さんは、週に一度はわが家へやって来る。毎回手土産を欠かさず、靴をきちんと揃え、ぴしっと直角にお辞儀をする彼は悪い人には見えない。我が儘で気分屋な妹に、彼は合っているだろう。
だけど、彼が来ると厄介だ。
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