2 ― 感情のまにまに【6.5 更新】

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 彼を気に入っている母は饒舌になり、しゃべらなくていいことまで延々としゃべる。それも、一段と大きな声で。  いつから母はこうなっただろう。年をとったということなのか、それともわたしがこれまで気づかなかっただけなのか。息を吹きかければ散ってしまう(ちり)のようにかすかな違和感は日々積み重なり、いまではどっしりとその居場所を構えている。  由紀ー、と呼びかける母の声が階下から聞こえて、わたしは瞼をおろした。  うたた寝してしまったことにして、石井さんが帰るのを待とう。  そう考えてみたものの、一分もせずに気が変わった。挨拶しないのは義理の姉としてよくないだろう。むくりと起き上がり、バッグのなかを探る。 『不安時に』と印字された薬袋に、眉が寄った。  不安なんてしょっちゅうで、不安こそが通常運行だ。意識を向けないようにしているだけで、不安になんていつだってなれる。  わたしは薬袋からシートを取り出し、一瞥してから親指でプチっと薬を押し出した。いつのものだかわからないペットボトルの水で、白くちいさな丸い粒を喉の奥に流し込む。  こんなにちいさいと、なんだか頼りない。この一粒にどれだけの効果があるのだろう。  階段を下りながら、石井さんの地元の名物とはなんだろう、とどうでもいいことを考えた。リビングに近づくにつれ、母の甲高い声がますます大きくなる。不思議と嫌な予感がした。  リビングのドアノブにのばしかけた手を止め、扉のガラス窓から姿が見えないように躰を引っ込めた。こういう勘は当たる。
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