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早くここを出よう。一刻も早く。
わたしは丸まったショーツとブラジャーを拾い上げ、素早く身に着けていった。
ピロートークをするつもりなんてない。邑木さんとのセックスに、情なんて一欠片もなかったのだから。
逸る指先でブラストラップを整えていると、軽い咳が出た。乾いた空気に季節がとうに変わったことを気づかされる。
置いていかれる。季節に、社会に、人に。
わたしはまだ、あのゆらめく陽炎のなかにいる。
「ちょっと待ってて」
そう言ってベッドルームを出た邑木さんは、二本のペットボトルを手にして戻ってきた。
「水、ガス入りと普通の、どっちがいい?」
片膝をかけられたベッドが軋み、ペットボトルは軽やかな水音を立てた。身を乗り出した邑木さんのバスローブの胸元から、陰影がのぞく。
目を反らしたくなったけれど、反らしたらこの男に負けてしまうような気がした。
「……ガス入り」
睨みつけて言うと、邑木さんは真っ青なペットボトルのキャップを捻ってからこちらに差し出した。それくらい自分でできるのに。
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