1 ― 雪を欺いて【6.5 更新】

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 苛立ちを流し込むように炭酸水を呷ると、食道に痺れが走り、胃袋がきりりと冷えた。わずかに肩が上がる。空きっ腹にはよくなかったな、と後悔した。 「あたたかいもの、なにか持ってこようか。コーヒーか紅茶か」 「いいです」 「遠慮することないよ」 「いえ、ほんとうにけっこうです」  抑揚なく答えると、邑木さんはなにか考えるような顔をして口を開いた。 「きみ、彼氏となにかあったのか」 「彼氏と、なにか……」  阿呆みたいに復唱してしまった。そうすることしかできなかった。 「あんなふうに俺を誘ってきた理由は、なに」  どうしてそんなことを。どうしてそんなことを、この(ひと)は訊くんだろう。  この(ひと)からは他人への興味や関心を感じない。つめたいわけではないけれど、見えない境界線をいつも感じていた。  明日になればわたしとの夜だって忘れるだろう。いや、一時間後には。  口を噤んだままでいると、邑木さんがベッドに腰をかけた。スプリングが弾み、すっかり緩くなってしまったブラジャーの隙間にペットボトルの水滴がぽたりと落ちる。  胸をなぞるように流れる細い水脈を感じながら、わたしはすでに乾きはじめた唇を開いた。
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