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苛立ちを流し込むように炭酸水を呷ると、食道に痺れが走り、胃袋がきりりと冷えた。わずかに肩が上がる。空きっ腹にはよくなかったな、と後悔した。
「あたたかいもの、なにか持ってこようか。コーヒーか紅茶か」
「いいです」
「遠慮することないよ」
「いえ、ほんとうにけっこうです」
抑揚なく答えると、邑木さんはなにか考えるような顔をして口を開いた。
「きみ、彼氏となにかあったのか」
「彼氏と、なにか……」
阿呆みたいに復唱してしまった。そうすることしかできなかった。
「あんなふうに俺を誘ってきた理由は、なに」
どうしてそんなことを。どうしてそんなことを、この男は訊くんだろう。
この男からは他人への興味や関心を感じない。つめたいわけではないけれど、見えない境界線をいつも感じていた。
明日になればわたしとの夜だって忘れるだろう。いや、一時間後には。
口を噤んだままでいると、邑木さんがベッドに腰をかけた。スプリングが弾み、すっかり緩くなってしまったブラジャーの隙間にペットボトルの水滴がぽたりと落ちる。
胸をなぞるように流れる細い水脈を感じながら、わたしはすでに乾きはじめた唇を開いた。
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