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After Story 脱稿
厄介な事件に巻き込まれたが、私はなんとか新作小説を脱稿することが出来た。タイトルは『メフィストフェレスの微笑』である。
とりあえず溝淡社に原稿を送る。返事は早かった。
「紗禄先生、君の原稿読ませて貰ったよ。読み出しから衝撃的だ。ページ数は300ページ弱だが、あっという間に読めてしまいそうだ」
「まあ、原稿を書いている間に色々と事件に巻き込まれてしまい、当初のスケジュールから1週間程押してしまいましたが」
「大丈夫だ。溝淡社には未だに人気推理小説シリーズの原稿を書いてくれない小説家だっているんだ。1週間ぐらいのラグなんて、可愛いもんだ」
「ですよね。とりあえず京極先生に『早く新作小説を書くように』って念を押しておいて下さい」
「分かっています。それは兎も角、『メフィストフェレスの微笑』はすぐにでも書籍化出来るように印刷会社にも話を進めておくよ」
「ありがとうございます。では私はこれで」
私は、通話を切る。
これで、いいのだろうか。
小説家としての自分は、悩みっぱなしの日々である。
ちょっと外の空気が吸いたくなったので、芦屋浜の方まで出てみる。
冬の海は寒いが、潮風が心地よい。
スマホの音楽プレイヤーを起動する。
執筆中はヘビーメタルばかり聞いていたが、先日たまたま見つけたDo As InfinityのCDを聞いていたら、こういうロックも悪くないと思った。
特に、CDに入っていた「冒険者たち」という曲が、今の自分と重なっている。
「例え朽ち果てて 全て失くしても きっと悔みはしない new frontier 待っていろ いつかこの後に 道はできるだろう」
そうだ。私は冒険者なんだ。
仮令自分が朽ち果てようが全て失くしようが、道は出来るんだ。
だから、これからも「執筆」と言う名の「冒険」を行っていくのだろう。
夕日が見える。
2月となると、段々と日が長くなる。
――そのオレンジ色の空を背に、私は家へと帰っていった。(了)
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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