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Introduction 小説家の朝は早い?
私の名前は紗禄ほむら。小説家だ。嘗ては全然売れない小説家だったけれども、ある日を境に私の人生は一転した。
たまたま溝淡社に送った『妄想の匣』という小説が売れてしまったのだ。完全にどっかの妖怪小説家のパクリみたいなタイトルなのに、売れてしまった上に植木賞にノミネートされてしまった。
それから、私は新作小説のアイデアを練るために周辺をウロウロするようになった。
私の住まいは神戸から少し離れた芦屋という高級住宅街だ。なんか文豪の街としても知られているらしいけど、まさか自分がそんな文豪の仲間入りを果たすとは思わなかったのだ。
芦屋という街は、意外と伝承が多い。鵺退治の伝承が残っていたり、打出の小槌の伝説が残っていたりする。そんな街に、私は住んでいるのだ。
ふと、芦屋川の方へと足を伸ばす。
芦屋川の下流に、焼死体があった。これはもしかしたら殺人事件かもしれない。
現場を検証する刑事さんの中に、見覚えのある顔がいた。
華奢な躰にショートボブ。紛れもなく、アイツだ。
「あれ?ほむらちゃん?いや、ここでは宇津木綾奈と言ったほうがいいかな?」
「ああ、ヒトミンか。その焼死体、どうしたんだ」
「今朝、芦屋川下流で見つかったらしくて・・・。刑事さんが一生懸命現場検証しているけど、全く以て脈ナシ。ほむらちゃんはどう思う?」
「うーん、分からん」
「矢っ張り、そうか」
「でもさ、芦屋にこんな伝承があるのは知っているか」
「神戸の伝承なら知っているけど、芦屋はあまり知らないなぁ」
「まあ、話すと長くなる。後で私の家に来るんだ」
こうやって、私は自分の仕事場兼自宅へと踵を返した。
アイツなら、何となく分かってくれるかもしれない。
――そう思いながら、私は爆音でヘビーメタルを聴いていた。
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