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座椅子に腰掛け新聞を読んでいると、遊びに来た末孫が何やら紙とクレヨンを広げイソイソと書き出した。
何かと思えば敬老の日という事で私と妻にお手紙をくれるんだとか……。
一生懸命うなりながら似顔絵と文を書いていて近付いて覗こうとしたら『 見ちゃダメ! 』と頬を膨らませながら怒られた。
その姿に、昔銀婚式の祝いに日頃の感謝を綴りいざ出すには恥ずかしくて出せなかった手紙を思い出し、金庫に閉まっていた木箱を手に取り中から一通の古ぼけた封筒を取り出し中を見た。
――
――――
親愛なる 藤白 圭 さま
頼りない僕ですが
いつも側に居させてくれてありがとう
これからもよろしくお願いします
愛してます
――
――――
たった数行。
でも何を書いたらいいか解らず何度も書き直した大切な手紙だ。
丁度いい。
今年は金婚式。末孫にならってもう一度書いてみようか。
まるで初めて恋をした時のようなこしょばさがあるし、 また筆が進まないかもしれないが今度はもっとたくさんの思い出を振り返り感謝と愛を込めて……。
どうせなら花束を添えようか、それとも切手を貼り宛名しか書かずに出そうか?
差出人不明の手紙に圭は怪しむだろうか?普通なら気味が悪いだろうな、だが、普段からまるで少女のように悪戯好きな圭ならば字を見ただけで差出人に気付いてくれるだろうか?
なんなら手紙そのものを暗号文にしてみるのも良いかもしれないなぁ。
などと想像しているとほんの少しの悪戯心が芽生えてきて楽しくなってきた。
『 じぃちゃんも " 誰か " に手紙書こうかな 』 とボールペンと便箋を持ち寄り末孫の傍に座り、2人で和気あいあいと机を囲む。
次男夫妻に『 また甘やかして!』 と、怒られるかもしれないが、気分がよくなり後で何か買いに行こうかと誘うと末孫は本が欲しいと行った。
小学校に上がったばかりだと感じていた子の欲しい本がホラーだと聞いて驚いたが、どうやら 【 怖い物件 】 というタイトルで大好きな作家の新刊が発売されたんだとか……。
―――― おしまい。
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