そして破滅へ

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 『私の言う通りにしろ。さもなくば、家を出て行け』  母親は、『親に見捨てられるかもしれない』という子供の恐怖を利用して、俺を支配しようとした。夢で見るのは、いつもその場面だ。  だが、。康司と華怜の夢に比べれば。  1カ月くらい前から、華怜が康司に抱かれている夢を見るようになった。それは俺にとって、地獄以外なにものでもない。  俺はその夢を見てから、寝るのが怖くなり、なるべく夜眠らずに過ごすようにした。結果、昼夜が逆転し、バイト先を無断欠勤するようになった。  バイト先から何件も着信があった。恐怖を感じたので、俺は着信拒否した。バイトリーダーのLINEもブロックした。  もう働く気力などなかった。働いたところで、せいぜい生活費を稼ぐことしかできない。家に帰って、コンビニ弁当を食べて寝るだけの生活だ。そんな人生に何か意味でもあるのだろうか?  俺が今生きているのは単なる偶然か? それとも何か意味があるのか? あるとしたら、それは一体何だ? 他人も、こんな苦しい思いを乗り越えて生きているのだろうか? 確かめたくても、友人が一人もいない俺には、それができない。  いや、一人いた。康司だ。彼は俺の親友だった。だが、華怜が彼のことを好きだとわかったときから、俺の方から彼を遠ざけたのだ。そうしなければ、彼を殺しそうだったから。  俺は最近、文学賞に応募することをやめ、自分のブログに小説を書き始めた。もちろん訪問者など一人もいない。この地球上で、誰一人俺の作品を知らない。  康司の作品がベストセラーになり、実写化され始めると、いよいよ俺は本格的に体調を崩し始めた。胃が刺すように痛む。だが、医者に行っても、原因がまったくわからない。
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