蛇足的ないわゆるざまぁパート⑧

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蛇足的ないわゆるざまぁパート⑧

 なんとも情けない結果だ、と公爵は歯噛みした。 老鬼を見送った後、一縷の望みをかけて魔王の私室を探索してようやくそれらしきものとしてぐしゃりと丸められ打ち捨てられた紙切れだった。 『西暦二千年代の日本に生きるあなたに、この世界のことを説明するとしたらまずは何から伝えたらいいのかしら。  ある日、突然それは起こりました。私の意思などお構いなしに。所謂、異世界召喚というものでした。私の動揺も不安も恐怖もお構いなしに、その世界の人々は話しを進めていくのです。彼らが言うには、私は数十年ぶりの聖女なのだとか。あれよあれよ云う間に、私は聖女として祭り上げられたのでした。 … … … 憎い、恨めしい、自分の都合だけを押し付けて。 私には家族も友人も全て、別れの言葉さえ継げる間もなく引き離したくせに。 叶うなら、この命をかけて…』 途切れ途切れの、文字を辛うじて読み取れば聖女が書き残した手紙か走り書きか。最後の方は、もう恨み言を書き殴っただけになっていたそれを目にし、初めて彼らは自分たちのしていたことを理解した。  自分たちのために、縁もゆかりもない人間を拉致して命が擦り切れるまで酷使していたのだ。帰りたいと嘆いていたのは何も今の聖女だけではなかったというのに。 「ツケが回ってきたということか。」 これから先起こるであろう国内外の混乱を思い浮かべ、侯爵は眉間にしわを寄せた。これはもはや王太子を筆頭とした勇者パーティーだけの失態に止まらないのだ。 未だ事の大きさを理解しようとしない彼らに、聖女の書き残した言葉を読み聞かせる。 『私は魔王の申し出を受けることにした。こんな辛い思いをするのは私で最後にできるのなら、そうしてあいつらに目にものを見せることができるのなら、この命尽きてもいい。』 自分たちは何も悪くないと言い張る彼らに、公爵は頭痛を覚える。いや、確かに聖女を追い詰めたのは彼らだけではない。まるで奴隷のようにこき使っていたのは大人たちだ。それを見て育った王太子たちも、国民たちもそれが普通だと認識しても仕方がない。…仕方がないが、こうなってしまっては。 『ざまあみろ』 これほど怨念のこもった一言があるだろうか。 公爵は王都へ戻ると指示を出した。 魔王はもういない、いないというのに。考え方を、国のシステムを変えなければ、魔王が存在した時よりも世界は荒廃するかもしれない。 憂鬱な足取りで、探索隊は王都を目指す。 王国の、この世界の凋落の足音が彼らの後を追うようにコツコツと。それは公爵の幻聴だったか、それとも…
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