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正直、あんまり特にいいと感じたことは。…内心こんなもんかぁと思ってたのは彼には秘密の話だった。そのせいでわたしはどうやら性欲薄い人なんだなとずっと思い込んでたくらいだし。
ごもごもと言いにくいことを呟いてたら、察してくれたうゆちゃんがすっぱりと容赦なく片付けた。
「そりゃ、相手の男のせいだろ。下手くそだったのか相性が悪かったのか、愛情が足りなくて自分さえよければ女の方は感じてようがいまいがどうでもいいってやり方だったのかもしれないし。自分の身体を自慰に使われてるって察したら、そりゃこっちだって白けるし行為に乗れないんじゃないの。…あるいはあんたを上手く感じさせられてないのは薄々知ってて、それがあの男の密かなコンプレックスだったのかもしれないね」
「…ああ」
なるほど。
急にすとんとその仮説が欠けたパズルのピースみたいにびったりと収まるところに収まった。
一体彼はあそこまでして何がしたかったんだろう。わざわざ手をかけて人を集めて、わたしを生贄に差し出したりして。その人たちはそれなりに楽しく遊べただろうけど、わたしはもちろん彼にだって。大した得もない行為な気がするのに。
彼はいつも口では、自分に尽くしてくれる仲間に大事な彼女の身体を使ってでも報いたいんだ。みんなにいい思いをさせてやりたい、って言ってたし、確かにそれもまるっきり嘘ではなかったのかもしれない。
飽きてきた彼女をみんなに玩具として提供して、その見返りに恩を売った分忠誠を誓わせる。後ろ暗いことに加担させて仲間意識を高めるとか、いろんなメリットがなくもない。だけど、彼にとってメインの利得は意外と単純なことだったのかな。
わたしを感じさせて絶頂させる自信がない。だから、たくさんの男たちにわたしを弄ばせて性的に高まらせる。何度もいかされてびくびくと敏感になったわたしを、そこから存分に味わえるわけだ。思えばいつもそうしてた。
ちょっとの刺激でもいきやすくなってたから、最後の仕上げに彼にされるときはもう、獣みたいになって夢中で腰を遣って味わって絶頂してたなぁ。多分陽くんが本当に欲しかったのはあれだったのかも。嘘じゃなく、掛け値なしによがってる女の子とすること。
「…まあ、付き合ってる子を上手によくしてあげられないからって。普通選ぶ選択肢ではないよね。自分で何とか頑張るより他人を使って力業で…って。そんな感覚の男とじゃ、上手くいかなくて当たり前だってことでいいんじゃないの?」
陽くんに対して何のしがらみもないうゆちゃんの口振りは容赦ない。『そんな男』って。…まあ、そうかな。そうかもしれない。
彼女の声がふっと少しだけ優しくなった。
「男ってみんながみんなそんな奴じゃない。きっと、これからだりあのことが本当に大好きで大切だって言うやつが絶対現れるから。自分より何よりあんたが喜ぶことを優先して、そのためになら何でもするような男がさ。そしたらきっと。恐怖とか嫌悪感とか屈辱なしじゃ得られなかった快感のことなんか。きれいさっぱり忘れちゃうと思うよ」
「そう?…かな、ぁ」
彼女は当然のことみたいにあっさり断言するけど。わたしの方は半信半疑だ。
「うゆちゃんみたいに特別な人ならわかるけど。わたしなんか全然普通で平凡で、特に他人から好かれるようなとこもないし。すごく好きになってくれる相手と巡り合える人はもちろん世界でゼロ人ってわけじゃないけど。大抵の人はそう上手くはいかないよね?わたしなんか。別に何の光る部分もないしなぁ…」
嘆息したらうゆちゃんの呆れ返った声が降ってきた。
「本気でそう思ってるなら大したもんだよ。それマジで外で絶対言わない方がいい。…まあ、特別他人を惹きつける要素を持って生まれてくるのがラッキーとも限らないのは確かだけどね。災厄も当然引き寄せられてくる。でも、それは今回のことを今後の教訓にと活かすしかないんじゃないの」
「そう上手くいくかなぁ…」
特別他人を惹きつけてるとは思わないが、少なくとも陽くんてある種の災厄みたいな人を呼び寄せたのは事実だ。次に誰かと付き合うときはああいうタイプを見抜いて寄せつけるな、ってことだよね?わたしにそれができるかっていうと。
「人を見る目は正直自信がない。わたし、自信に満ちてて独特の世界を持ってる人に弱いんだよね。オーラみたいなものにすぐ目が眩んで惹きつけられちゃう。その人がたまたま真っ当なしっかりした人だった場合はいいけど…」
例えば。うゆちゃんとか。
「実質大した中身もないのに表面だけ悠然としてるタイプもそこそこ混ざってるから。一見してその違いがわからない。また陽くんみたいな人だったらどうしよう、って思うと。やっぱりしばらくはもう、恋をするのは怖いなぁ…」
どさくさに紛れて彼女の胸許にぽふん、と頭を預けながら小声で呟く。抱き寄せはしてくれないけど、突っ込み入れたり身体をずらして逃げたりはせずに放置してくれた。わたしが甘えてることにまるで頓着しない様子でうゆちゃんはあっさり言い切る。
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