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「やだ、もう!あはははははは」
皆でひとしきり笑ったあと、あ~あと言い
ながら四人同時にお冷やを飲んだ。
それぞれの珈琲は、とっくに空になっている。
三棟がコの字に建つ大型マンションの、
同じ棟に住むアラフィフ主婦四人。
歳が近いせいか、妙に気が合った。
時々、駅前に出掛けては、女同士の尽きない
長話を楽しんでいる。
「本当なのよ。なんか主人、最近怪しくて。
こそこそいっつも携帯をいじっているのよ。
前まではその辺に無防備に置いてたのに、
最近じゃ、常に持ち歩いてて。」
「佐伯さんのご主人、素敵だものねぇ。
マンション内で、ちょっと有名よ。
会社でも、モテているんじゃない?」
「えー?嘘よ、そんなの。すっかりおじさん
じゃない。最近じゃすっかり愚痴っぽくなって。
新しい上司が年下で、なまじっか仕事も
できるもんだから気に入らないみたいで、
帰ってくれば、ぐちぐちぐちぐち。
私の話しなんか全然、聞かないくせにね。
そのくせ夜は、しつこいったら…」
「あらあら!50をとっくに過ぎたっていうのに、まだまだお熱いわねぇ~」
ぎゃははははと、下品な笑い声が響いた。
女性が集まって一斉に笑うと、騒音と言って
いいくらいの大声になる。
隣の席の若い女が、ジロリと一瞥してきた。
典子は、顔では笑っていながら、内心は穏やかではなかった。最後の言葉は嘘だった。
佐伯はもう何年も典子の体に触れていない。
実は典子は、夫の浮気を疑っている。
そして密かに、夫の不倫相手が
この中にいるのではないかと思っている。
主人と仲の良い素振りは、見えぬ相手への
精一杯の虚勢だった。
新婚当初は、佐伯はしつこいくらい典子の体に夢中だったくせに、最近では携帯ばかり
いじっていて、まったく相手にしない。
許せない。
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