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佐伯はタバコの火を灰皿で押し潰すように消した。 まったく、喫煙者が肩身の狭い時代になったもんだ。 わざわざ一階の屋外まで来ないと吸えない。 まぁ、佐伯みたいな人間にとっては、 ここは屋根もベンチも自動販売機もあるし、 人目につかない、都合の良い休憩所って ところだ。 実際、まだ午前中なのに3回目の一服。 穏やかな日差し。枯れ葉の匂い。 暑くも寒くもない、ちょうど良い季節だ。 二本目の煙草に火をつけ、携帯をいじる。 『まさか森村さんもこのゲームやってたとはなぁ』 ここ数ヵ月、佐伯は携帯ゲームにハマっている。オンラインで、見知らぬユーザー同志が 四人一組になって、協力し合って戦う、 バトルゲームだ。その中の一人が、なんと 偶然、うちの下の階の主婦だったのだ。 妻の典子が仲良くしている主婦友達らしい。 世間は狭い。 夜なんか、たまにチャットで話したりするのだが、年齢や家族構成がうちと似ているせいか、話が合い、楽しい。 すぐに典子に話せば良かったのだが、強い武器欲しさに課金している後ろめたさから、 なんとなく言えないままだった。
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