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シホちゃんは公園のドーム型の遊具の中で膝を抱いて泣いていた。シホちゃんがいつもそこで泣いていたことをカホはちゃんと知っている。
「シホちゃん、帰ろう」
カホもドームの中へと入ってシホちゃんの隣に座って声をかけた。だけどシホちゃんは嫌々と首を横に振るだけだった。
「暗くなったら危ないよ」
「カホちゃんと違ってシホには心配してくれる人なんていないもん」
そんなことないよ、とはどうしても言えなかった。ふたりして黙って座っていたのだが、不意にシホちゃんが言った。
「カホちゃん、旅行の日にシホとヘアゴム交換しよう」
「え……」
つまりカホが家に残れということなのだが、さすがに嫌だと思った。
だってずっと行きたかった遊園地で、そこのホテルに泊まれたら友達にだって自慢出来る。それをシホちゃんに譲るのはどうしても嫌だった。
「今回はカホに行かせて。シホちゃんは次行けばいいよ」
「嫌、カホちゃんこそ次にすればいいじゃない」
「でも、カホがずっと行きたかった所だし、」
「シホだって行きたいもん」
しつこい、そう思ってしまった。カホの慈悲で今まで入れ替わってあげていたのに、シホちゃんのくせに調子にのっている……そんな風に思ってしまった。
「カホちゃん、今シホのこと嫌な子だと思ったでしょう?」
図星をつかれてドキリとなる。
「そんなことないよ、」
「嘘。だってカホちゃん、今パパとママと同じ目をしてシホのこと見てたもの。……ひどいよ、ひどいひどいひどいひどい!! カホちゃんなんて大嫌い!!」
泣き怒りながらシホちゃんがカホの首を目がけて両手を伸ばしてきたので、その手を払ってドームの外へと這い出た。
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