しあわせのために演じます

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 車は走り去ってしまった。わたしは動かなくなった**へ駆け寄ると、その傍らにしゃがんだ。  **は口から血を流しながらヒューヒューとした吐息交じりにわたしの名前を呼んだけど、直に何も言わなくなり目を開いたまま眠ってしまった。  わたしはひどく落ち着いてた。頭の中が今までになく冴え渡っており、冷静にまずは自分の青いビー玉のついたヘアゴムを外してポケットへ。そして次に**の頭から赤いビー玉のついたヘアゴムを外してそれで自分の髪を結んだ。  結び終えた後、**を轢いた車が戻って来たので急いでドームの中に隠れて様子を伺った。車は**の近くに止まり、中からは男が出てきた。男は慌てた様子で周りを確認してから、息絶えた**を抱き上げてトランクにしまうと猛スピードで行ってしまった。  一連の様子を見届けた後、わたしは何食わぬ顔で帰宅することにする。赤いビー玉のヘアゴムをつけて。  **の最後の望み通り、シホちゃんはいなくなった。  わたしはカホ。双子の姉妹の妹で、赤いヘアゴムをつけている。両親に可愛がられて、大切にされ、遊園地に連れて行ってもらえるカホ。  誰よりもしあわせな“カホ”をわたしが誰よりも上手に演じましょう。これから先ずっと、ずーーーーっとカホを演じて生きていく。それで不幸になる人間なんて誰もいない。パパもママも“カホ”が大好きなのだから。  だからもうさようなら、**(わたし)
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