魔女は登城する

1/1
前へ
/25ページ
次へ

魔女は登城する

 王宮の貴族来客専用の玄関に、馬車が着くとドアが開いた。  ネブラは、黒いドレスを両手で持ち上げ、一人で馬車を降りようとすると、男性の手が差し出された。 「ネブラ嬢、お待ちしておりました」  ネブラは、男性の右手にそっと自分の左手を添えた。ネブラが馬車を降り、まじまじと男性の顔を見ると、男性はまるで、会えてうれしいと言わんばかりのはち切れそうな笑顔で出迎えた。  その男性の年齢はネブラと大差ない。着ている服装から見ても上位貴族であろう。そして、面影がある顔立ちをしている。 「ネブラ嬢、会議室へご案内致します」 「御手を煩わせて申し訳ありません。よろしくお願いします」  男性は、ネブラの指の間に自分の指を入れ握り締めた。ネブラはそれを解こうとしたが、男性はネブラを逃すまいと軽く力を込めた。  このような眉目秀麗な紳士に手を握られるなんて、魔法国マギーア共和国へ戻れば今後はないかも知れない。ネブラは無理に解こうとするのを止めた。  男性の額で分けられた、ストロベリーブロンドの髪が軽く揺れる。青い瞳の視線が何度もネブラへ向けられる。ネブラは、その視線に応えるように穏やかに微笑んだ。  ネブラは、シンプルな黒いドレスを着こみ、真っ直ぐな髪はそのまま垂らし、化粧はワインレッドのリップだけなのだが、男性はネブラに美しいと囁いた。  王宮内ですれ違う男女が足を止めて、驚いたように二人を見る。 「ハインリヒ殿下が、女性をエスコートしていらっしゃる。あの方はどちらのご令嬢か?」  異口同音は、ネブラの耳に届く。  ハインリヒ・フォン・エッペンシュタイン、この国の第二王子の名前だ。母君のお名前は、ベアトリクス王妃陛下。この国の正妃である。  会議室に着くと、ハインリヒは椅子を引いてネブラを座らせた。その後、隣の椅子をネブラへ近づけ、ハインリヒは座った。  会議室は、十名程の人数が余裕で入る規模のもので、中央に楕円形の黒光りするテーブルがあり、椅子の背もたれとシートはビロードが使われており高級感があった。  そのすぐ後に、ハンス・フォン・ゼッケンドルフ宰相、ヨハン・フォン・シュライツ侯爵とその娘アデリナが入室され、ハインリヒとネブラの近すぎる距離に三人は大変驚いた。  ゼッケンドルフ宰相は、ハインリヒの右隣の席に座り、書類をテーブルに置いた。シュライツ侯爵は、アデリナをネブラの隣に座らせると、自分も娘の左隣の席に座った。 「間もなく、ルードヴィッヒ国王陛下、カルラ側妃様、フランツ殿下がご入室いたします。皆様ご起立ください」  侍従が、部屋の両扉を開けた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加