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魔女は登城する
王宮の貴族来客専用の玄関に、馬車が着くとドアが開いた。
ネブラは、黒いドレスを両手で持ち上げ、一人で馬車を降りようとすると、男性の手が差し出された。
「ネブラ嬢、お待ちしておりました」
ネブラは、男性の右手にそっと自分の左手を添えた。ネブラが馬車を降り、まじまじと男性の顔を見ると、男性はまるで、会えてうれしいと言わんばかりのはち切れそうな笑顔で出迎えた。
その男性の年齢はネブラと大差ない。着ている服装から見ても上位貴族であろう。そして、面影がある顔立ちをしている。
「ネブラ嬢、会議室へご案内致します」
「御手を煩わせて申し訳ありません。よろしくお願いします」
男性は、ネブラの指の間に自分の指を入れ握り締めた。ネブラはそれを解こうとしたが、男性はネブラを逃すまいと軽く力を込めた。
このような眉目秀麗な紳士に手を握られるなんて、魔法国マギーア共和国へ戻れば今後はないかも知れない。ネブラは無理に解こうとするのを止めた。
男性の額で分けられた、ストロベリーブロンドの髪が軽く揺れる。青い瞳の視線が何度もネブラへ向けられる。ネブラは、その視線に応えるように穏やかに微笑んだ。
ネブラは、シンプルな黒いドレスを着こみ、真っ直ぐな髪はそのまま垂らし、化粧はワインレッドのリップだけなのだが、男性はネブラに美しいと囁いた。
王宮内ですれ違う男女が足を止めて、驚いたように二人を見る。
「ハインリヒ殿下が、女性をエスコートしていらっしゃる。あの方はどちらのご令嬢か?」
異口同音は、ネブラの耳に届く。
ハインリヒ・フォン・エッペンシュタイン、この国の第二王子の名前だ。母君のお名前は、ベアトリクス王妃陛下。この国の正妃である。
会議室に着くと、ハインリヒは椅子を引いてネブラを座らせた。その後、隣の椅子をネブラへ近づけ、ハインリヒは座った。
会議室は、十名程の人数が余裕で入る規模のもので、中央に楕円形の黒光りするテーブルがあり、椅子の背もたれとシートはビロードが使われており高級感があった。
そのすぐ後に、ハンス・フォン・ゼッケンドルフ宰相、ヨハン・フォン・シュライツ侯爵とその娘アデリナが入室され、ハインリヒとネブラの近すぎる距離に三人は大変驚いた。
ゼッケンドルフ宰相は、ハインリヒの右隣の席に座り、書類をテーブルに置いた。シュライツ侯爵は、アデリナをネブラの隣に座らせると、自分も娘の左隣の席に座った。
「間もなく、ルードヴィッヒ国王陛下、カルラ側妃様、フランツ殿下がご入室いたします。皆様ご起立ください」
侍従が、部屋の両扉を開けた。
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