王宮からの使者①

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王宮からの使者①

 デファクト王国の第一王子が呪われた。しかも呪いをかけたのは、婚約者である。  婚約者は、王子が自分だけを愛してくれるように、魔法をかけて欲しいと魔女に依頼した。メイドに扮した魔女は、王宮の廊下で王子とすれ違いざまに呪いをかけた。  婚約者以外の女性を愛したならば、胸が苦しくなり、黄泉の国へ行くことになる。そうならないためにも、王子は四六時中婚約者のことを思わねばならない。  魔女ネブラは、王宮の使者の話に溜息をついた。  婚約者は魔法をかけて欲しいと依頼した。依頼された魔女は呪った。  きっとその魔女は、婚約者、または夫に裏切られ捨てられた経験の持ち主だろう。彼女には、王子と婚約者の未来が見えていた。  王子が浮気相手の手を取り、永遠の愛を誓うことを、そして婚約者が発狂し、自ら命を絶ってしまうことを。 「それで、私に何をしろと?」  伯爵邸の応接室で、ネブラと使者が向かい合っていた。 「ネブラ様に、王子にかけられた呪いを解いて欲しいのです」 「デファクト王国には、聖女様がおられるではありませんか。その方に頼むのが筋ではないでしょうか?」  それを聞いた使者は、鼻で笑った。 「あの聖女様は、お飾りですよ。異能なんてない。ただのかわいらしいだけの小娘です」 「小娘……」  聖女とネブラは同い年である。年齢は十九歳なのだが、聖女は、童顔で、笑顔がかわいらしく、少女体形で、男性の保護意欲をそそる。  一方、ネブラは黒髪、茶色の瞳、身長は標準女性より頭一つくらい高く、スタイルがよい。顔も他人様から見れば、美人の部類に入るらしく、肌を露出していないのに、頭から爪先まで見られる。  まるで魅了の魔法をかけられたようだ。  ネブラは、男どもにそう言われる度、嫌な気持ちになった。使者も時折、ネブラを舐めるように見る。  呪われた王子は美形で、年齢は二十二歳。その婚約者は、二十一歳。この二人の婚約期間は九年と長く、結婚適齢期を迎えた婚約者は、崖っぷちに立たされている。婚約者の実家である侯爵家も、王子の浮気を不快に思っているに違いない。  ネブラは、浮気をする王子の味方をする気はない。 「他の魔女に、依頼をしてみましたか?」 「はい、あたってみましたよ。実際に王宮にいらしていただき、呪いを診ていただきました」 「解呪は?」 「かなり強い呪いのため、私では解けないとおっしゃいまして、ネブラ様をご推薦いただきました」 「その魔女のお名前は、なんとおっしゃる方ですか?」 「名前は確か…… プルウィアと名乗っていらっしゃいました」  プルウィア叔母様、嫌なお仕事を私に回しましたわね。ネブラはむっとした。
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