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今の王家に嫁ぐのは百害あって一利なし
「命令だったのか?」
フランツがアデリナへ顔を向けると、シュライツ侯爵家とアデリナは頷いた。
「フランツ殿下、この婚約はカルラ様がとても熱心でした」
シュライツ侯爵が言った。
フランツは、カルラを見た。フランツの心臓が、大きく膨らみ、急激に萎んだような気がした。
「あら、フランツとの結婚は、シュライツ侯爵家にとって名誉なことだし、アデリナは将来王妃よ。シュライツ侯爵家にとってもお得なことだらけではないの」
「私はそのように思ったことなどありません。むしろ今の王家に嫁ぐのは百害あって一利なしと思っておりました」
シュライツ侯爵の発言は、ルードヴィッヒとフランツの機嫌を損なうものであった。
「おい、シュライツ侯爵、それは王家への侮辱ではないか」
「恐れながらルードヴィッヒ国王陛下、婚約を辞退するのであれば、領土の三分の一を返上せよという命令、私は聞き入れられません。それも返上を求められているのは、我が国の穀倉地帯です。
その土地をいかがなされるのか伺いますと、カルラ様の贔屓にしている男爵にくれてやるのだと言うではありませんか。
我がシュライツ侯爵は先祖代々王家に仕えて参りましたが、カルラ様に仕える気などありません」
カルラは怒気を孕んだ口調になった。
「ルードヴィッヒ、シュライツ侯爵家を取り潰してちょうだい」
「ああ、そうだな……」
ルードヴィッヒが、カルラの暴言を許していることに、同意していることに、ゼッケンドルフ宰相は呆れ果てた。
「ルードヴィッヒ国王陛下、貴族の家を正当な理由もなく取り潰す、これは国王陛下の命令であっても無理なことです。爵位の返上やお取り潰しは、貴族院を通さなければなりません。
それに、シュライツ侯爵家は今日まで、王家に誠実に仕えて参りました。土壌や穀物の改良、穀物の供給や価格の安定。この国がこのように自給自足が出来るのも、シュライツ侯爵家をはじめとする、穀物を投機の対象とさせない誠実な貴族がいるからです。
シュライツ侯爵家を無理矢理取り潰そうとするならば、シュライツ侯爵の徳を慕う貴族も黙ってはいないでしょう」
カルラは、ゼッケンドルフ宰相の横やりに歯をぎりぎりと噛んだ。
そもそもアデリナが、フランツを惚れさせるだけの魅力がないのがいけないのだ。少しばかり顔立ちが綺麗でも、子供の頃から不愛想で、フランツに笑顔も見せない。だから聖女に横取りされたのだ。
そして、聖女が上位貴族の娘ならば、なにも問題はなかった。だが聖女は男爵の娘だ。生家は、権力も財力もない。よってフランツの後ろ盾にはならない。
カルラの実家の子爵家も後ろ盾になれない。なんとか生家を伯爵の位に押し上げようとしたが、貴族院の承認を得られなかった。
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