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フランツ王子と国王陛下にかけられた呪い
聖女は、側妃で構いませんと言うが、フランツは王妃にしたいと言う。
ゼッケンドルフ宰相派閥の貴族は身分にうるさい人が多い。聖女を正妻にしたければ臣下となることを求めるだろう。ゼッケンドルフ宰相は、これを幸いとしてハインリヒを立太子するに違いない。
シュライツ侯爵は、派閥に属さず中立を保っていたので、こちら側に取り込み、フランツの立太子に貢献してもらうつもりでいたのに嫌がった。そんなに嫌がるのならば、敵になる前に潰してしまった方がいい。シュライツ侯爵家の土地を取り上げて、カルラ支持派の貴族に与えればいいのだ。
シュライツ侯爵は、カルラのこのような思惑を察知し、ゼッケンドルフ宰相へ近づいていった。
カルラは、アデリナを利用することにした。アデリナをお茶会に招き、フランツを好きになるように薬を盛った。
アデリナは、フランツを追い掛け回し、あとはフランツの説得だけである。だが、フランツは説得に応じなかった。そして、魔女に呪いをかけられたのだ。
(ああ、なんで私の思う通りにならないの、ルードヴィッヒ以外は)
「フランツ殿下、胸を押さえていますが、いかがなされました?」
ネブラの問いかけに、皆が一斉に、胸を押さえて眉間に皺を寄せるフランツを見た。
「アデリナは…… 私のことを愛していないのだろう? なぜ、私の胸はこんなに痛むのだ?」
「それは、多くの魔女が解呪を嫌がった呪いが、フランツ殿下にかけられているからです。そして同じ呪いがルードヴィッヒ国王陛下にもかけられているのです」
薬が効いてきた皆の目には、異様な光景が見えた。フランツの腹部が、植物の毛細根のようなものに覆われ、心臓まで伸ばしていた。
「おそらく毛細根が、心臓を覆って行こうとしているのでしょう。フランツ殿下、ご自分の体を鏡でご覧ください」
フランツは、痛む心臓を押さえて鏡の前に立った。毛細根が体の内部を這って広がっていく速さは、静かな水面に一滴を落としたかのようである。
「気持ち悪い」
フランツ殿下は、鏡の前で頽れた。
ルードヴィッヒは、布で巻かれたミイラのように、毛細根が体内の隅々まで巻き付いていた。
ネブラ以外は、顔を引き攣らせていた。
「ルードヴィッヒ国王陛下も、ご自身の姿を鏡でご覧ください」
カルラ以外は、顔でそうするようにと促している。
「フランツ、どいてくれ」
フランツは、脇に移った。自身の姿を鏡で見たルードヴィッヒは叫んだ。
「なんだ! これは?」
フランツは、ルードヴィッヒを見上げた。近くで見れば、毛細根が何重にも重なっているのがわかる。これは長い年月、呪いがかけられ続けているのではないかと、フランツはぞっとした。
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