30人が本棚に入れています
本棚に追加
婚約者は可愛げがないが、聖女は可愛い
フランツとアデリナの婚約が決まったばかりの頃、王宮の一室で机を並べて教育係に教わっていた。アデリナは優秀で、教育係は満足しているようであった。その後、二人は机を並べて学ぶことがなくなり、個人授業になった。フランツは、アデリナがいなくて清々したが、後で彼女が学びを先に進ませていることを知った。
(昔も今もアデリナは、かわいげのない女だ。ああ、聖女に会いたい。あいつは少しお馬鹿なところがある。だが、そこがかわいい。聖女の笑顔のためならなんでもしてあげたくなる)
フランツの腕を聖女の腰に回し抱き寄せた時の気恥ずかしさから、赤面した聖女を思い出した。聖女は見つめ合っていたフランツから視線を外すと、バスケットに入ったジャムクッキーを摘まんだ。
「ああ、そうだわ。フランツ殿下は、聖女が手ずから差し出したお菓子を召し上がっていらしたわ」
アデリナがお妃教育の休憩時間に、二階の窓越しに外を見ると、フランツと聖女がお茶を楽しんでいた。窓を開けていれば、二人の笑い声が聞こえていただろう。聖女がお菓子をつまみ、フランツの口元へ持っていく、それを食べていた。
何も私の当てつけのように、そこでお茶をしなくてもよいのにと、アデリナは不愉快に思った。だからといって、フランツと聖女が愛し合うことを邪魔しようと思っていない。むしろ二人はお似合いだと思っている。ただ、私だけときめきを経験出来ずに、お妃教育ばかりの日々が嫌なのである。
(なんで、フランツだけ恋愛を楽しんでいるのよ。私だってあんたなんかよりもいい男とお茶をしたいし、一緒に街を歩いてみたいわ)
アデリナが溜息をついた。
(君は、いつも私のことを言った後、溜息しかつかない。私のことを呆れているし、蔑んでいるのだろう)
フランツは、アデリナへ嫌味を言いたくなった。
「アデリナ、嫉妬は見苦しいな。聖女は、私を純粋に愛してくれているからな。恋人ならば誰だってそんなことやるだろう。聖女は教会の仕事が忙しいだろうに、よく自ら作ったお菓子を持って来てくれる。これが美味しんだ。お茶だって自ら入れてくれる。ツンと澄まし返っているどこかの貴族令嬢とは大違いなんだよ」
「フランツ殿下、聖女様とお茶を楽しまれるのは、月にどれくらいの頻度でしょうか?」
「ネブラ嬢、聖女を疑っているのか? 聖女は性悪な女じゃない。神にお仕えしている心身ともに清らかな方だぞ。魔女とは対極にいるお方だ」
「兄上、魔女の魔力は神から授けられたものです」
ハインリヒとフランツが睨み合った。
「フランツ殿下と聖女は、毎週会っているはずよ」
(また、アデリナの嫉妬か)
「ああ、愛し合っているからな。お互い会わずにいられないのさ」
私の息子はなんて馬鹿なの。カルラは頭を抱えた。
最初のコメントを投稿しよう!