国王陛下の乱心

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国王陛下の乱心

「ハインリヒ。この状況をきちんと見ていたの? そこの魔女はルードヴィッヒの薬を隠したのよ。あの薬を飲ませれば良くなるのよ。ルードヴィッヒの容態がこれ以上悪くなったら、ハインリヒ、貴方もそれなりの罪を受けてもらうわ」  カルラとハインリヒが対峙している最中に、屈強な騎士達によって担架が運び込まれた。侍従が連れて来た医師が、ルードヴィッヒの脈をとった。 「早く医務室へ」 「国王陛下、御身を担架へお移し致します」  騎士が体に触れようと手を伸ばすと、ルードヴィッヒはそれを払いのけ、目を見開きすっくと立ち上がり、腰に下げていた護身用の短剣を抜いた。  皆は、カルラの背後に近づいて行くルードヴィッヒを止めもしなかった。ルードヴィッヒがこの状態で歩けるとは思わなかったことと、何をしようとしているのかわからなかったからである。  ルードヴィッヒはカルラの左肩に短剣を突き刺した。そして、それを左右揺らして勢いよく抜いた。  カルラは驚いて後ろを振り返ろうとしたが、ルードヴィッヒの右手がそれをさせなかった。カルラの右目に短剣を見せた。  ルードヴィッヒの左手は、ドレスの左部分の布を引きちぎり、溢れ出す血を美味しそうに飲みだした。皆は呆然とした。  カルラは、叫び声を上げた。 「貴方達、私からルードヴィッヒを早く離して!」  ルードヴィッヒは、カルラの喉元に短剣を当てた。 「父上、母上の喉元に当てた短剣を離してください」  フランツは、ルードヴィッヒの背後に立ち、肩を掴んでカルラから離そうとした。ルードヴィッヒは、カルラの喉元から短剣を離すと、背後にいたフランツの脛をがっつり蹴り、力を緩めたフランツの手を外し後ろを向き、短剣を左から右へスイングさせた。  切られそうになっているフランツを、ネブラは魔法で素早く押し倒した。そのおかげでフランツは衣服を掠っただけで済んだが、腰を抜かしていた。  カルラはこの隙に逃げようとしたが、ネブラの魔法で全く動けない。ルードヴィッヒに捉まり、また血を吸われ始めた。 「ルードヴィッヒ国王陛下が、ご乱心なされた。皆で止めるぞ」  護衛騎士四人、医者一人、侍従二人を相手に、ルードヴィッヒは短剣を振った。医者と侍従は後退りし、護衛騎士の一人が左腕を、もう一人が右腕を同時に掴んだ。騎士の一人が短剣を払い落とし、右脚をもう一人は左脚を持ち上げた。屈強な騎士に抱えられてもルードヴィッヒは暴れ、騎士達は移動もままならなかった。
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