ハインリヒ殿下は摂政となっていた

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ハインリヒ殿下は摂政となっていた

 ネブラは、紅茶に薬を入れようとワゴンの傍に立った時、カップとソーサーが一客分足りないことに気付いたと言う。おそらくハインリヒの出席は、想定外だったのだろう。加えてカルラの機嫌がすこぶる悪かったので、メイドは追加で持ってくることも出来ないのであろうことが推し量られた。 「最初にハインリヒ殿下が、すぐ後にゼッケンドルフ宰相、シュライツ侯爵、アデリナ様が紅茶を召し上がり、ワゴンには三つ紅茶が残され、その一つをアデリナ様がフランツ殿下へ差し出された。残りは二つだけ、私はこっそりと薬を入れ、私が薬を入れないカップを手に持ちカルラ様に差し出せば、残りの一つはルードヴィッヒ国王陛下が召し上がられる。  もし、カルラ様がメイドをあのような不遜な態度で追い出してくださらなかったら、ルードヴィッヒ国王陛下の紅茶へ、メイドが見ている前で薬を入れることも出来なかったでしょうし、『飲まないで』とおっしゃってくださらなければ、紅茶をルードヴィッヒ国王陛下から配られたでしょう」 「私が私を自身で陥れたと言いたいようね。ネブラは、これから私をどうしたいのかしら? 私はルードヴィッヒの愛妃よ。ルードヴィッヒの命令無しに、私に無礼を働くことは出来ないわ」  ネブラは、ふっと笑った。 「それは私が答えよう」  ゼッケンドルフ宰相は、テーブルの上に置いた書類を手に持った。 「デファクト王国とマギーア共和国は、禁術による犯罪防止協定を結んだ。これにより禁術を行ったものは、マギーア共和国へ引き渡し捜査を依頼する」 「ゼッケンドルフ、ルードヴィッヒ国王陛下を通さずに勝手に結んでいいと思っているの。その協定は無効だわ」 「カルラ様、この協定は摂政であるハインリヒ殿下が結ばれたものです」 「ハインリヒが摂政? それはどういうことだ? 私は父上から聞いていないぞ」  フランツは、いつの間にハインリヒが摂政になったのだと喚いた。 「カルラ様、フランツ殿下、ハインリヒ殿下は先月無事成人を迎えられました。ルードヴィッヒ国王陛下は、ハインリヒ殿下が成人を迎えたならば摂政とすると誓約しています」 「なんですって。いつの間にそんな…… 誓約書を見せてちょうだい」 「側妃如きは、この件に対して何かしらの意見や命令等いかなる権利もない。誓約書は、先王陛下と当時王太子だったルードヴィッヒ国王陛下の間で正式に結ばれました。立会人は、私とラムスドルフ伯爵です。ハインリヒ殿下、私、ラムスドルフ伯爵の同意がなければ、ルードヴィッヒ国王陛下であってもお見せすることは出来ません」 「あら、そう。その誓約書があるかどうかも怪しいわね。後でルードヴィッヒに依頼して確かめてやるわ」 「カルラ、先程ゼッケンドルフ宰相は言ったはずだ。禁術を行ったは者は、マギーア共和国へ引き渡し捜査を依頼すると、あなたは未来永劫、ルードヴィッヒ国王陛下とお会いすることはない」  ハインリヒ殿下はきっぱりと言い放った。
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