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エピローグ 婚約解消
「ネブラ嬢、これが転移魔法かい?」
「はい、そうですわ。私もそろそろお暇します。明日から王宮に通わせていただいて、解呪させていただきます」
「通わなくてもいいよ。君の部屋は用意をしてあるんだ」
ハインリヒは、嬉しそうに笑った。
「そのような厚かましいこと出来ませんわ。皆様、私これで失礼いたします」
ネブラは、皆に向かって優美なカーテシーをした。その後、転移魔法陣を足元に浮かび上がらせたが途中で消えてしまった。ネブラは、はっとして左掌を見た。転移魔法を打ち消す魔法陣が浮かび上がっていた。
「私がネブラ嬢と一緒にいたいと、プルウィア様に頼んだんだ」
(あのとき…… そう、馬車を降りてから左手を握られたときに付けられたんだわ。あまりにも自然過ぎて気づかなかったなんて…… ハインリヒ殿下の美しさに心を奪われてしまったからだわ)
魔女としてあるまじき不覚に、ネブラは落ち込んだ。
「私の傍にいるのは嫌かい?」
ハインリヒは、ネブラと向かい合い両手に手を添えて顔を覗き込んだ。ハインリヒの麗しい顔が、ネブラに近づくと顔が赤くなる。ネブラは思わず頭を横に振った。
「そうではなく、プルウィア叔母様の魔法を気付けなかった私は、まだ魔女として未熟だと思っただけですわ」
「そう? 魔女としての実力は十分だと思うよ。でも私は…… この魔法に気付かなかった君に感謝している。君と色んな事を話したい。お互いを知る機会を与えて欲しい。ダメかな?」
(ハインリヒ殿下、そんな甘い声で縋るように望みをおっしゃられますと……
)
ネブラは馬車を使ってでも強引に帰ることを諦めて、ハインリヒを見上げ頷くことしかできなかった。
ハインリヒは、ネブラのかわいらしさに緩んだ口元を左手で隠した。
ハインリヒは、ゼッケンドルフ宰相、シュライツ侯爵、アデリナへ顔を向けた。
「後の事は、ゼッケンドルフ宰相に任せる」
「はい、ハインリヒ殿下、かしこまりました」
「ネブラ嬢、行こう」
「ネブラ様、今日はありがとうございます。私、フランツ殿下にこれまでの思いを伝えることが出来ましたわ」
アデリナはにっこりと笑った。これで婚約は解消されるのが確定だ。アデリナは、ネブラに優雅なカーテシーをした。
ハインリヒは、ネブラの手を取り会議室を出て行った。
ゼッケンドルフ宰相が、シュライツ侯爵とアデリナに近づいて行った。
「シュライツ侯爵、後日婚約解消の日時をご連絡する。それで終わりだな」
「ゼッケンドルフ宰相、ありがとうございます」
シュライツ侯爵父娘は頭を下げた。
後日、この会議室の扉が開かれ、質素な服装をし、威勢を失ったフランツが、前後左右に侍る四人の騎士に促されるように入室した。
フランツの呪いはかけられてから期間が短かったことと、ネブラが王宮にいるので、聖女が全く会いに来なかったことで早く解呪出来たが、浮かない顔をしていた。
一方、アデリナは以前よりも美しく輝いていた。ダークブロンドのウエーブがかかった髪は、しっとりと艶やかで、肌はきめ細く、バラ色の唇は色っぽく、水色のドレスがよく似合っていた。
フランツは椅子に腰かけると、アデリナの首元に光るネックレスに気が付いた。空色の小さな宝石をハートが囲んでいる。
空色のような瞳の彼氏でも出来たのだろうと、フランツはアデリナから視線を外し、婚約解消の書類を黙読しサインをした。
その後、フランツは王位継承権がなくなり、調査が終了するまで、王宮の奥まった一室に幽閉されることになった。
婚約解消から半年後、アデリナは自分の護衛を務めていた騎士と婚約した。
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