30人が本棚に入れています
本棚に追加
魔女は、呪いを可視化する②
「馬鹿馬鹿しい」
そう言って、ハインリヒは、椅子から立ち上がり、ネブラの傍に行った。
「カルラ様、ネブラ嬢は私の婚約者と言ったでしょう」
「だからこそ信じられないのよ。ハインリヒは王太子の位を狙っているのでしょう。フランツのライバルだわ。そのライバルの婚約者よ。なにか企んでいるに決まっているわ」
ハインリヒは、カップを手に取ると、紅茶をごくりと飲んだ。
「ただの紅茶だな」
「無味、無臭の薬ですからね。皆様もどうぞお飲みになられてください」
ゼッケンドルフ宰相、シュライツ侯爵、アデリナが立ち上がり、ワゴンからカップを手に取りお茶を飲んだ。
「あら、美味しいお茶だわ」
アデリナは紅茶を飲み終えると、カップとソーサーのセットを一つ持ち上げて、フランツの前に置いた。
「フランツ殿下もどうぞ召し上がれ。私が依頼した呪いをその目でご覧ください」
「かわいげなく、ふてぶてしい女だ」
フランツは、アデリナの態度にむかついた。
「フランツ飲まないで」
「母上、こいつの挑戦的な態度を見たでしょう。命にかかわる毒ではないようだし、母上も飲みましょう」
ネブラの右手は、カップの上を滑らせて、一つのソーサーを持ち上げた。そして、「失礼します」と言って、紅茶をカルラの前に置いた。
カルラは、斜め後ろにいるネブラを睨んだ。
ルードヴィッヒへ紅茶を差し出したのは、ハインリヒであった。
「ルードヴィッヒ国王陛下、どうぞ」
「ルードヴィッヒ、飲まないで。私達はこれで失礼するわ」
カルラは、ルードヴィッヒの腕を掴み、一緒に退室するように促した。席に戻っていた皆は、その慌てぶりを怪訝そうな面持ちで見た。
「母上、お座りください。いかがなされたのですか?」
「そうだぞ、座ってカルラも飲め。見ることが不可能な呪いが見られるのだぞ。滅多にない機会だ、呪いがどのようなものなのか、この目で一緒に見よう」
ルードヴィッヒとフランツは紅茶を飲み干した。
「カルラ、私に口移しで飲ませて欲しいのか?」
ルードヴィッヒは、飲もうとしないカルラに笑いながら冗談を言った。
母にかける言葉とあまりにも違い過ぎる。
最初のコメントを投稿しよう!