三月二十一日 5

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 ただ、不思議だったのは、祠を撮った画像だけが自棄に手ぶれを起こしていたことだ。祠の石だけが激しくぶれて、背景の鍾乳石ははっきりと映っている。それ以外はオーブが映っていたが、碧の洞窟に入る前に撮った写真はきれいに風景が撮れていた。祠の画像は特に気味が悪かったのもあり、よく確認せずに次々と削除した。なんだか記録媒体に保存しておきたくなかったのだ。  これらの画像は、カメラではなく、場所に問題があったのかも知れない、と言う考えが頭をもたげる。その考えを振り払い、夜須は洞窟の奥へ向かった。  奥へ入れそうだが、腹ばいにならないと通れない穴しかなかった。碧の洞窟の内部は、漏斗のような形になっているのだろう。この狭い穴の向こうに行けたら……、と夜須は歯がゆかった。碧の洞窟に、シジキチョウの幼体や卵がないのならば、鍾乳洞側に生息場所があるのだ。どうにかしていけないかと屈んでみた。 「それではみなさん集まって下さい。そろそろ水位が上がり始めますので、ボートに戻りまーす」  ガヤガヤと観光客が集まり、次々と洞窟を出て行く。確かにくるぶし位の水深だった海水が、今では(すね)にかかっている。
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