三月二十一日 5

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 民宿かんべの引き戸を開けて中に入ると、店に中はしんと静まりかえり、客ははけていた。奥にいる親父が、「もう店じまいしたぜよ」と大きな声を上げた。 「あの、宿泊したいんですが……」  調理室と民宿の廊下と繋がっているのか、親父は奥に向かって、おかみさんを呼び続けた。 「おい! お客さんだぞ」  そのうち、「はいはーい」と廊下を足音を立てて、おかみさんがやってきた。 「あら、えーと夜須、さんやったか。どうされたがか?」 「泊まりだとよ。いつからいつまで?」  親父が間に立って夜須に訊ねた。 「今日から二十三日迄です」 「二十三日だってよ」 「はいはい、聞こえちゅーがやき言わいでも大丈夫よ」  おかみさんが台帳を持ってくるといって引っ込んだ。親父が上がれ上がれとせっついてきたので、促されるままに靴を脱いで家内に上がった。 「空いちゅーぜよ。素泊まり? 三食付き?」 「じゃあ、三食付きで……」
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