萬緑五月

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まず話し始めたのは颯馬。 「まず、転校生が来るよね?ここが大事な分岐点で、内気ないい子かクソうざい猿のどっちか。その子が学園に結構な波乱を起こして荒らすんだ。」 しょっぱなからとんでもなく重要そうなことを言ったと思う。猿?この学園に猿が来るのか?仮にも名門校だぞ? 「まあ困惑してるね…とりあえず長くなるから簡潔にステップを言うね?」 「お、おう」 「転校生の性格は抜きとして、確実に起こりそうな大まかなシナリオがあるんだ。これが厄介で……待って、僕じゃ愛が溢れて簡潔にまとめられない…山形……頼んだ。」 そう言って颯馬はパスタを食べ始めた。お前お腹すいて耐えられないだけじゃねえか。 「お前仮にも国語教師だろうが…はあ。じゃあ無能な颯馬に代わって俺が説明するからな。」 「よし頼んだ裕翔。」 「ねえ酷いよね?いや僕も悪いけど酷いよね?もういいよパスタ食べるもん」 本日、うるさい颯馬を無視するのは3度目です。皆さんいかがお過ごしですか。 そんな颯馬を鼻で笑った裕翔が、ため息を吐いてから極簡潔に話した。 「転校生来る→美形ズが惚れる→親衛隊含め生徒荒れ狂う→学園荒れる」 「おうおうおうおうなんだそれ」 今聞いたたったの4ステップでもう面倒臭い。量より質にも程がある。 なんでお前はそんなに淡々と告げれるんだ。 「で、颯馬曰くそのステップの序盤に食堂イベントって言うのがあってだな。生徒会が次々と落ちるイベントらしい。」 「うわ…阿鼻叫喚が想像出来るぜ。」 多分親衛隊のチワワなんかは泡吹くんじゃねえか?え、ちょっと可哀想だろ…割と健気な生徒達だぞ… 「で、とりあえず俺はそのイベントに関わるな、と?」 「そ。学年主任の木下は特に影響あるからね!王道ストーリーを邪魔されたらたまったもんじゃないもの!」 復活したらしい颯馬がそう言ったところで、ふと思い直す。 「なあ、俺のクラスに来るんだから意味無くねぇか?どっちみち会わなきゃならねぇじゃねぇか。」 「あ……ん゛ん、そこは大丈夫だよ!木下はギリ王道っぽいし!王道でホスト教師の出番大体少ないし!木下総受けにはさせない!」 「理久…せめて猿じゃなかったらいいな」 何かを決心した顔でふすふす言っている颯馬が何かほざいている。総受けが不快な立場なことは知ってるからな、頼んだ颯馬。 そんな俺を哀れな目で見つめるのは南波さんと裕翔の2人。なんだお前ら。いや南波さんにお前とか言ってはダメだ。お前と貴方? 「木下トリオは相変わらずだな…とりあえず早く食えよ、いい加減冷めちまう」 「そうだよ2人とも!僕を見習おう!」 「黙れ無能」「口縫うぞ」 「酷くない……?」 しょもしょもとした顔をしてパスタをもう一度食べ始めた颯馬を軽く笑って俺達もそれぞれの飯に手をつけた。うん、うめえ。 ちなみに南波さんはそんな颯馬を見て 「ははは、どんまいどんまい」 と笑っている。多分思ってないだろうな。 俺達が各々料理を食べていると、南波さんがふっと笑って問いかけてきた。 「どうだ、斗亜の飯もうめぇだろ。」 斗亜、というのは2年前に前コックと交代した新しいコックの福島斗亜。前コックの息子で俺もたまに顔を合わせるのだが、本当に料理に命をかけているのが凄くわかる。そんなところも父親とそっくりだなとよく話題になったりするいい若者だ。 「ほんと、料理に情熱が染み出てるもんね」 「2年前よりも美味くなり続けてるのがすげえよ…この天ぷらうめぇ」 「しばらく親子丼食ってなかったけど、確かにもっと美味くなってるわ」 「はは、あいつも喜ぶよ。」 前コックの福島さんもいい人だったので、いい方に育ったんだろう。 この食堂の雰囲気等も前コックが築き上げてきたもの。それを崩すことなく、更に新しいものを生み出していくのはそう簡単ではない。若いのに、いい仕事をしていると思う。 南波さんも他のウェイターに呼ばれ、仕事に戻ったあと。しばらく3人で新歓について話していた。 新歓というのは、新入生歓迎会のことで、毎年この学園がある山のもう少し上の方で合宿をする。毎度思うが、なぜ海に行かないのか。なんで毎日山ん中なのにイベントすら山なのか。5月だから海に入れないとしても出来ることはあるだろ。ほら……地引き網とか? やべ、金持ちの坊ちゃんが地引き網してるとか面白すぎて腹壊れるな。 まあ、颯馬は毎年毎年興奮し散らかしてはいるが。やっぱり泊まりというのは恋愛上ビッグイベントらしい。
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