萬緑五月

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「んで、今年はただでさえ面倒臭いイベントにめんどくせぇ奴が参加すると?」 「その通りだよ木下。転校生は九割九分九厘参加するだろうね」 ニヤリと笑う颯馬を見て、そうだ、と裕翔が声を上げた。 「颯馬に聞きたいんだが、その王道ルートを回避する方法とかは無いのか?」 その問いに、颯馬はうーんと唸る。 「あるっちゃあるよ?…非王道って言うんだけど。王道とは違うストーリーになるから、転校生が王道だとしてシナリオ通りに進まないならこれだろうね。」 「王道前提かよ」 「もうこんだけ条件揃ってる中転校生来たらどう足掻いてもトラブルはあるでしょ!」 確かにまあ、一理ある。親衛隊の中にも過激派は居るしな。これまで親衛隊絡みで不登校になった生徒や退学した生徒だって幾度か見たことがある。一人の人間としてどれだけ心が痛んだことか。 分かりもしないだろう、生徒会役員。 転校生とアイツらが絡んだ場合まず間違いなく転校生は目をつけられるしその周りも目をつけられる。例え転校生に常識があっても生徒会から近づいたんじゃ意味が無い。 颯馬の言う王道に沿いすぎてる。最悪だ。 今年は最高の”7年目”にしたいのに。 「とにかく…転校生が来てみねぇと何もわからないよな…」 「まあ裕翔の言う通りだな、明日会ってみればわかる。」 「こっから忙しくなるんだろうなあ…あーヤダヤダ。生徒会が仕事放棄しなければ僕らに影響ないけどさ〜。」 ブーブーと不満を3人で上げながら、職員室へ。本日の5、6限目は特別授業で各学年何クラスかに別れて活動するらしいので、俺たち3人とも暇。ということで、それぞれ解散して仕事やらなんやらすることになり別れた。 2人と別れ、職員室から少し歩いたところにある社会資料室に入る。この部屋は学園の社会担当教師のみ使用することが出来る部屋で、資料がある他に休憩室としても使っている。 学年主任用カードキーを通し、資料室へ入る。すると、部屋の真ん中のテーブル近くへ鎮座するソファの上に1人誰かが座っているのが分かった。 「……木村か」 声をかけようとしたが、相手がスヤスヤと寝ているのに気づいて呟くに抑える。 木村快人。3B担任の、社会補佐である。 安らかな顔で寝る…というと少し語弊が生まれてくるのでこの言い方は変えよう。 気持ちよさそうに眠る顔を見て、出ていこうかと考える。人に寝ている顔を見られていい気分になることもないだろうし、少し気にする人の方が多い。 しかし、俺も噂の転校生による疲れに備えて休める時に休みたい。 そう思い、木村の向かいのソファへと腰かけた。ふぅと一息ついて目を閉じた時、部屋の扉がガラリと開けられた。 「なんだ、2人揃ってお休みか?」 平井先生だった。一日に2度も顔を合わせるなんて割と厄日だと思う。重くなっていた瞼を持ち上げれば、バッチリ目が合った。 「おい木下、お前なんか失礼なこと考えたろ。バレてるぞ」 そう言い俺を見下ろして軽く睨みながらも、口元は愉快な形。コーヒー飲むか、と聞かれたのでお願いしますと答え、平井先生が用意し始めた音を聞きながらもう一度軽く目を閉じた。 この人が自分からコーヒー入れ始めるなんて珍しい。大抵俺か木村がすることが多いのに。 「おら、入れてやったぞ」 ドサ、と隣に座る気配。 それと同時に、美味そうなコーヒーの香りがそこまで広くないこの部屋に満たされた。 「珍しいですね、平井先生がいれるの。」 「転校生で大変になるだろう後輩を思ってのことだよ……と、木村起きろやコラ、俺がコーヒー入れたぞ」 と木村の頭をカップを運んだお盆で叩く。うわー、痛そ。結構力入ってたぞ。 「っだっ……あれ?お二人共?俺が寝てる間に揃ってたんですか?」 「おう、よく寝たか木村」 「めっちゃよく寝ましたけどとりあえず平井先生に俺が硬いので殴られた理由伺っていいですか」 「腹立ったから」 「理不尽の二足歩行にも程がある」 木村も目覚めたところで、木村が平井先生にどやされて運んできた菓子を3人で食べながら新歓についてや社会の授業についてなどの話をする。 木村は3年前にこの学校に就職したので、俺と平井先生の後輩にあたる。この年数の差で平井先生にどやされたら恐ろしいだろうに。 ちなみに平井先生は俺が来る2年前に来たベテラン。なんかすごいらしく、少しだが飛び級したらしいのでまだ三十路には入っていない。あとほんの少しだが。なんだこのハイスペック。 と、向かいの木村と横の平井先生がなにやら見つめ合っていた。目ぇ怖、人何人か殺してるだろ。
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