萬緑五月

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「あー、そういえば転校生の事なんですけど…」 2人が言葉を交わさず睨み合うだけという冷戦を数分続け、いい加減俺も気まずすぎたので声をかければ、2人はハッとしてこちらを見た。 「え、急にこっち見ないでもらえます?」 平井先生は俺をじっと見つめた後、わざとらしく大きな溜息を吐いた。 木村も困惑する俺を見て、やれやれといった顔で苦笑いしている。なんだこいつら。 「あーっと、転校生がなんだって?」 「ああ、颯馬から聞いた話なんですけどね。まあ転校生は多分学園に波乱をもたらす的な事言ってましたよ」 食堂で話したことを思い出しながら説明していく。平井先生は風紀顧問だし、言っておいた方がいいという判断だ。木村はまあ…特に理由はないがいざという時に頼りになる面はあるからな。多分。 「ふぅん…これがただの妄想の範疇にしてもあながち間違ってはないな…めんどくせぇ。」 「転校生ねえ…あ〜仕事が増える……」 眉間にぐっと皺を寄せ、不機嫌全開の平井先生とソファにぐでっともたれ掛かる木村だが、双方事の重大さは理解したようで。 「しかしまあ、今の時点ではまだ何もわからねえから、出来ることはねぇ。木下」 「?はい」 「とりあえずお前は担任としても1人の人間としても転校生絡みで何かあったら絶対に俺に連絡しろ、いいな?」 強い瞳でこちらを見つめる平井先生に反対する理由もなく、3回くらい頷いた。 だって怒らせたら怖いだろ。 「ま、それ以上は来てみないとわかんねぇよな〜、あ゛〜この菓子うめぇ」 呑気に洋菓子を食べている木村を平井先生がじろりと睨む。 「木村、てめぇは自分で何とかしろよ」 「え゛っ…平井先生それはあんまりかと?後輩ですよ?こ・う・は・い」 木村を冷ややかな目で見る平井先生とそれに対して文句を言いもう一度か二度くらいは盆で叩かれるであろう木村を横目に、入れられたコーヒーを飲みきる。 「俺、お先失礼しますね」 言うと、2人はこっちを向いて 「おう、お疲れ様。また明日な〜」 「明日は遅刻すんなよ」 と声をかけてくれた。 おそらく2人はこれから明日の授業の打ち合わせでもするのだろう。授業の難しさと忙しさから、木村先生は平井先生の補佐をする方が多い。そのため、俺が木村先生と一緒に授業することなんてそうそうないのだ。 ソファから立ち上がり、平井先生に軽く会釈をして資料室から出る。この後は職員室で時間を潰してHRして帰ろう。明日は転校生が来るし、何よりさっき言われたので遅れたら平井先生が怖い。 今日の残りの仕事を思い出しながら、職員室の扉を開けた。 ─── ── ─ 職員室に到着し、自分の机で仕事を始めて数十分。そろそろHRだ。 ぐぐっと背中を伸ばすと、軽く音がなった。 これでもこの名門学園に就職してる身なので、集中力とか含めて仕事はできる方だと思っている。ただし姿勢が悪くなるのがなあ、と最近思い始め、気をつけているのだがなかなか癖は抜けず。 前の長期休暇の時も…注意されたな。 姿勢が悪いと人からの印象はなんとなく下がっていくものなので、人前ではいい姿勢なんではないだろうか。 いつもよりも姿勢に少し気をつけながら教室へ行き、中へ入る。いつもの面々と軽く会話をしながら教卓の前へ着けば、生徒達も周りを見て席へ着いていた。こういう時のメリハリの付き方は流石Sクラスと言うべきか。 「おーし、まあちょっと遅れた気もするがこれは時計が早いだけだな。HR始めるぞー」 全員がチラリと教室備え付けの時計を見上げ、苦笑いする者とゲラゲラ笑う者とに分かれる。ゲラゲラ笑っている安原にはプリントを出そうか。いや、提出のチェック面倒臭いからやめよ。 「委員長、号令」 「起立、礼」 「「「「お願いします!」」」」 森本の凛とした声の後に、1Sらしい明るい声が響きわたる。が、そんな幸せに浸っている場合ではない。明日の用意もあるし休むため…割合は前者と後者で2:8だが、とにかくそのために早くベッドインしたいのだ。 ということで、素早く仕事を終わらせたい。幸運なことに週始め、本日の仕事はほとんど終わっているのであとは帰るだけだ。 「はい、俺からは連絡ないぞー。委員会からとかあるか?」 聞けば、クラスの全員が首を横に振る。 どうやらないようなので、そのまま明日の日程だかを簡単に説明し、HR終了。短いとよく言われるが、長々と話を続けるのも苦手なのでこのくらいが丁度いいと思う。 特にそのあと何かが起こる訳もなく、着々と時は進み。 ついに、転校生がやって来る日…昨日で言う”明日”がやって来たのだった。 ​───────​─────── 祝!200スター!ありがとうございます! ​───────​───────
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