萬緑五月

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転校生のため用意した教材を3分の1ほど副会長に預け、教室へ向かう。後ろの猿がうるせぇ。そのゴワゴワした黒い頭を揺らすな。マジで黒いたわしだから。 「なあなあ!!クラスのやつらってどんな感じなんだ!?仲良くなれるかな!俺だからきっとみんな仲良くなってくれるよな!」 隣の副会長はもう機嫌最悪。時々恨めしそうにこちらを睨んで来るのがそれを全面に表している。なんなら猿のことも睨んではいるのだが、分厚いメガネのせいで気付いてないのだろうか。 「…木下先生、私まで道連れにするのはやめて頂きたいのですが。」 「お前なあ、俺にコレを1人で相手しろってーのか?余程の物好きじゃないと無理だぞ?」 「それは……まあ、一理ありますね」 はあー、と副会長さんはため息。この道中でもう6度目のため息だ。 普段から忙しいと言うのにこの転校生。 これからの忙しさがもう見えてきたんだろう。分かるぞ、俺もだ。 「……まあ、無理すんなよ、副会長。」 慰めようと笑いながら言ってやれば、隣の副会長は目を見開いたあと、嬉しそうに微笑んだ。貼り付けていない素の笑顔。 いや思ってた反応と違うが。 噂に聞いていた”副会長”の反応ならいつものスマイルを貼り付けて少し嫌味っぽく返してくるんだろうと予想していたのに。なんでお前そんなにニコニコし始めてんだ。やめてくれ俺どう反応したらいいか分からん。 「おい!!なんで俺の事無視するんだよ!!友達のこと無視したらダメだろ!!謝ったら許すから謝れよ!!」 「はぁ…いいか本部、お前は生徒で俺は担任。決してお友達じゃないんだなこれが。」 「なんでそんなこと言うんだよ!!俺たち友達だろ!!酷いこと言うなよ!!」 もうどうしたらいいんだ? 救いを求めて副会長を見れば、もう相手にするというか話を聞くのもめんどくさいのか虚無っていた。それはこの際もういいんだがこっち見ながら虚無るのやめてもらっていいか? 「よし、早く教室行こう」 「そうですね」 「おい!!無視するなよ!!」 意外と副会長も人間らしい性格してんだなあ、という新たな発見とこの先転校生をどう教育すればいいかという絶望的な問題について考えをめぐらせているうちに、我がクラス1Sへと到着。さすがに中まで副会長に運ばせる訳にもいかないし、いくら1Sといえど副会長には騒ぐだろうから廊下で渡していた教材を受け取る。 え?猿?俺の後ろで騒いでるよ。疲れねぇのかね。てかあんまり生徒のことを猿って言うの良くねえか。 「ありがとよ、と、あーー、副会長さん甘いもん好きか?嫌いか?」 「え、いや、好き…です、かね」 「んでそんな挙動不審なんだよ…まあ、また今度なんか礼するよ、巻き込んで悪いな」 副会長の肩をポンと叩いてそう言えば、副会長は驚いたように目を開いたあと満面の笑みで「楽しみにしています」と言った。 なんだよただの可愛い生徒じゃねぇか。 少し生徒会のことを特別視していたのかと思いながら、副会長が歩いていくのを見送る。 「ちょ、香苗!!どこ行くんだよ!!」 「おーい本部、お前はこのクラスだ。俺が呼んだら入ってこいよ。」 「俺ここなのか!!分かった!!下の名前で呼ばれたら入るんだな!!」 いやいや待て待て。何付け足しとんねんお前。 ひとっっことも”下の名前で”なんて言っていないのに付け足して勝手に納得している本部。 まあもういいかと気を取り直し、扉を開けて1Sへ入った。 「おーしお前ら、待ちに待った転校生だぞ」 「「「「おおおおおお!!!」」」」 まだ見ぬ転校生に思いを馳せる生徒達を見てこいつらどんな反応するんだろうと想像する。1Sの事だからそんな酷いことにはならないと思うのだが。 「イケメン求!イケメン求!」 「ロリロリロリロリロリロリ……」 「ああ頼むアニマルセラピー!」 「いやもう普通の子来てくれ頼む…」 「1Sを荒らすな……」 「せっかく楽しい普通の男子高校生生活できてるんだよ…頼むよ……」 前言撤回、ここはやはりこの学園なんだなと思い直したが最後3人の言葉にクラス中が落ち着き、それもそうだとなるところに1Sらしさを感じる。 しかしな。お前らの願い叶わねぇわ。 このクラス100%荒れる。 「おーし、んじゃ今から紹介するから静かにしろー、あと本人の前ではあからさまな態度すんなよ。」 そう言えば、疑問に思った黒河が口を開こうとした。恐らく「どういう意味ですか」とかその辺だが、黒河が口に出す前に転校生を呼ぶ。 「おい本部ー、入ってこーい」 大きな音を立てて、1Sの扉が開かれた。 ​───────​─────── 祝!300スター! ​───────​───────
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