萬緑五月

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─main side── 流石名門校、ガラガラなどと煩く開くようなドアでは無いのだが、転校生が開いたドアはボウリング玉をフルパワーで打ち付けたような音がした。 「理久!名前で呼べって言ってるだろ!!照れなくていいから名前で呼べよ!!」 「「「「おっっっとぉ……」」」」 『あからさまな態度をするな』と言ったのをちゃんと守ろうと心掛けたらしく、見た目に対する素直な意見を心の中に留めまくって全員が絞り出したのがこの反応だ。 黒河もなるほどと納得した顔をしている。 「はいはい分かった分かった、早く前出て自己紹介してくれ」 言うと、転校生はズンズンと教室内に入る。 生徒達も達観した顔をしている。恐らくだが全員の心の中は『平穏よまた逢う日まで』だろう。 「俺は本部遙真だ!!!同じクラスなんだから友達だよな!!遙真って呼べよ!!皆仲良くしような!!!」 「………という事だ、お前ら、まあなんだ…思いやりを持って、歯に衣着せて仲良くしような。頑張れよ」 多分転校生には分からないだろう言葉を使って生徒に話す。というのも、理事長曰くこの転校生は裏口のようなものらしい。理事長の兄は何やらめんどくさい立場のようで、次男なだけに下手に逆らえなかったと。 まあ見れば分かる。こいつにあの試験が解ける可能性は低いだろう。頭が良い奴ほどヤバいやつも多いが、礼儀が出来てこその本当の知能と知識、頭脳になるのだから。 「ファッションの最先端いっててすごいね…独創的すぎて僕には真似出来ないよ…」 「まあ…新しい風…というより嵐…荒らしだけど…うん、まあ、あはは」 「アニマルセラピーじゃなくてマリモセラピーでもしろと?俺の趣味じゃねえ…」 「1S楽しかったよまたな」 「戻ってこい田口ーーー!」 「普通の男子高校生生活ね…はは、栽培でもするか…マカロン食いてー…」 「ロリどこ……」「イケメンどこ……」 まあ個性豊かな1S、誤魔化せてない奴もいるがまあなんとか対応しようとしている。 「まあ…本部の席は〜と、柴田の横な。あいつ寝てるから…篠目、手挙げろ」 はーい、と手を挙げたのが篠目 悠馬。 スポーツマンで、生徒からは王子様なんて呼ばれている。マイペースだが心が広くて誰とでも話せるタイプの生徒。 「本部の席、あいつの前な。」 「ここで〜す、ここここ〜」 本部はまたもやテンションMAX!!!みたいな声で返事をし、言われた席へ歩いていった。誰かあいつに”リラックス〜”とでも言ってやれ。某女児向けアニメの双子みたいに。 歩いている間、1Sの篠目以外の生徒は決して目をつけられぬよう、歩む本部から必死で顔を背けていた。嫌がらせや睨みに出ないだけ優しい奴らなのか? さて、転校生の紹介は済んだわけだが…まだ寝てるアイツは起きた時あの本部が隣に居てどういう反応をするのだろうか。考えただけで面白いんだが。いや生徒でこう面白がるのも良くはないんだけども、見た目で損するタイプのあいつが目をつけられるとなると笑わずにはいられない。 「先生〜柴田くん起こしますか?」 篠目も柴田に気を遣ったのか、チラリと見やってから問いかけてくる。 「いや、面白いからほっとけ。起きた時に説明してやればいいだろ」 「んふふ…分かりました」 篠目も考えたのか、ニコニコし始めたあと憐れむ目で柴田を見た。その思惑にクラス全員が気づき、柴田が見た目損な奴だと薄々気付いているクラス全体が同情の目を向けたのは言うまでもない。 ちなみに本部は全く分かっていなかった。 めんどくさいが面白い事になりそうだと、俺は呑気に適当に構える事にした。 まあ、この転校生が思っていたのより遥かに学園を掻き回すとは思ってもいなかったから。 ​───────​─────── 祝!400スター! ​───────​───────
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