萬緑五月

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時は過ぎ、昼休み。 生徒の大半が食堂へ行き、早い者は教室へと戻ってくる時間帯、俺は転校生の追加の教材やら他の教科の先生との連絡で忙しかったため、職員室でパンを食べた。そして現在、教室にてタブレット端末で授業のスケジュール組み立てをしていた最中なのだが。 何があったのか、何人かの1Sの生徒達がげっそりと疲れた顔をして戻ってきた。肉体的な、ではなく精神的な…朝の副会長と同じような。 「先生ぇ……聞いてくださいや…」 いつもハイテンションな安原でさえこんなだ。昨日は『王道ktkr!!』みたいな感じで喜んでいたのに。 「おー…お前昨日言ってた食堂イベとかじゃなかったのか?なにがあったんだよ。」 そう聞き、他の戻ってきた…つまり、食堂に行ってきた組の数人の生徒を見渡せば、全員が同じ雰囲気。大体この時間にほとんどの1S生徒は戻ってくるんだから行ってない奴らめっちゃビックリしてるだろ。 「それが……転校生が…」 ま た あ い つ か よ 確かに午前中の事でさっきの連絡の時にクソみたいに文句言われたよ。他の学年の先生にもな。だから他にもなんかしでかしそうだとか思ってたよ。頼むからやめてくれ。 逐一平井先生に報告入れてはドヤされ、人伝に西田先生が目をつけている報告を受け、颯馬からはニヤニヤされ、教師以外の関係者や転校生を担当していない教師たちから憐れみの目で見られる俺の気持ちにもなってくれ。 聞いたところ、食堂に行ったのは5人。 安原、黒河に加えて、田口、岡、吉田。 ちなみに田口は兄貴分、岡はお調子者、吉田は気さくなオタクだ。 なんでも、安原の誘いで食堂に行ったのだが転校生が篠目と柴田を引き連れてきた途端ブーイングの嵐。 しかもそいつらが近くに座り、その時点で黒河や田口は疲れ。 トドメのように生徒会オールメンバーが転校生に目をつけたらしい。そして5人全員ギブアップで、抜け出してきたと。 「僕だって正直生徒会来るまでは想定内だったよ…だってアンチといえど王道だしね。だけど……」 死んだ顔で安原が話始めれば、他4人も頷き。補足で話し始めたのは黒河だった。 「コイツがずっと言ってたのは副会長を筆頭に生徒会全員が堕ちるって言うのだったんですけど…」 次に話し始めたのは田口。 「なんか知んないんすけど副会長が転校生見た瞬間クソ機嫌悪くて…見たことないですよあんな副会長…食堂の気温氷点下でした…」 「逆に安原が言う普通の王道はどんなのなんだよ」 聞けば、安原は溜息をつきながら答えた。 まず副会長が転校生に門でkiss。その後爽やかと不良を引き連れた転校生にプラスで生徒会乱入、副会長が転校生に絡む。 そこから生徒会メンバーに王道特有の”お手軽☆単純☆お悩み☆解決”を発揮し、生徒会が懐く… らしい。 「何が悪かったって…副会長以外の生徒会が堕ちたから余計険悪でさ。副会長と他の生徒会メンバーが対立する感じになって…副会長も苛立ってるのが目に見えてさ…」 「生徒会メンバーがあんなに言い合ってるの初めて見たよ…マジで怖すぎ…しんど…」 続けて話したのは岡と吉田。 いつもふざけてる岡がこんなんになるとは。 まあ朝の様子を見れば副会長が転校生を気に入らなかったのは分かるが。 しかしだ。副会長以外の生徒会が堕ちたとなると…風紀の仕事が増えるな。いくら有能と言っても、副会長だけではカバーできないし。そうなるとどうなる?正解はな、おれが平井先生に物理的に潰される。それだけは阻止したい。 が、生徒会顧問でもなんでもない、ただの担任で学年主任の俺には何も出来な…… 出来るじゃねぇか。俺転校生の担任だろ。 俺はなんのために教師になった? 何とかしてやる、絶対に。 ところで起きた途端に転校生に目をつけられて連行された柴田と、面白そうについて行った篠目は大丈夫なんだろうか。 いや、篠目は大丈夫そうだな。
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