萬緑五月

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──side 柊 香苗 (食堂)── 朝の数倍にも増して苛々する。 収まっていた内蔵を回る気持ち悪さが戻ってくるようでこれまた腹立たしい。 数メートル先くらいか、ある程度離れた距離にいる転校生もといマリモ。 あの後、気分のいいまま生徒会室に帰ればその原因が転校生だと勘違い。残念ながらこの個性の強い奴らの誤認は解けず、会計の案により食堂へ赴くこととなった。 この面子全員で昼時の食堂へ行くと、とんでもなく目立つと少し考えればわかるだろ。 いや、違うな。こいつらは気づいた上で楽しんでいる、とんだ愉快犯だ。 最初…投票こそ不快極まりないものだったが、高等部でこいつらと生徒会として仕事をすると決まり顔合わせをした時。ただの個性の強いだけの奴らかと思った。頭のネジが飛んでたり、変態だったりズレてたり。それだけかと思ったがとんだ勘違い。こいつらは性格こそその通りであれど、全員良くも悪くも頭が回る。 人の心理を見通し、相手を転がして楽しむような奴やら、面倒臭いが故に効率を求めて相手を思い通りに動かすものやら。 そのクセして求めているものは単純だというのだから、可笑しさに引いた。 その一端に俺がいてやっていけてるのにも引いてる。 兎も角。こいつらなら転校生にも惚れないんじゃないかと期待していた…のだが。 俺たちが到着した頃、会計は惚れていた。 まあこれは正直想定内とも言える。正確には惚れてはいないのだから。 とにかく知りたがりなのだ。 1度でも魅力的と感じたなら、その理由をとことん知りたがる。 現在において特に魅力的と感じなくても、1度自分が感じた”魅力”とその”理由”を知りたがる。きっと性行為を繰り返すのもその為。 話してれば分かる、あいつはもう性行為に魅力を感じていない。ただ1度、感じてしまった魅力と快楽をしりたがってるだけなのだ。 会計は今、転校生に1度魅力を感じた。 故にこれから執着するだろうな。自身の”教材”として。ああめんどくさい。 そしてこれからまだ続くめんどくさい事。俺の周りのコイツらが転校生に接触する事だ。転校生は良くも悪くもここの生徒とは違う。その為こいつらの何かの琴線に引っかかる可能性が高い。こいつらが気に入るポイントはよく分からないから。 「おい柊、お前そんなに転校生と仲良かったのか?」 この生徒会を纏める会長、荻白晃也が俺に聞いてくる。んなわけねぇだろこのマヌケ、とでも言ってやりたい所だが、俺は副会長だから。 「そんな訳がないでしょう。目、あります?私の顔もお見えになりませんか?」 「お前な、そんなに言わなくてもいいだろ」 「転校生の方とは親しくありません。あの様なタイプは……」 言いかけて、止まる。会長が怪訝そうに見下ろしてくる。やめろ見下ろすな、おい。 「少々、苦手ですから。」 「……そうかよ。まあお前のことだしな」 それだけ言って、会長はまた転校生を眺め始めた。そこに加わる庶務の双子と書記。 「かなかなは〜」「ああいう子〜」 「「嫌いっぽいもんね〜!」」 「……ね、ぽいぽい」 話を聞いていたらしく、離れている転校生を横目に話しかけてきた。盗み聞きはよくないと思う。 「モサモサ、いらいら、きたないね」 擬音の多い文で話す書記も相変わらず。 少し長めの前髪を顔に垂らしたまま、高い背丈でこちらを見下ろしながら穏やかに話していた。また見下ろされた。 双子たちはどうやら転校生にちょっかいを出しにいくそうで、2人で意気揚々と向かって行った。彼奴らも中々に悪魔だからな、何が起こるのだろうか。少し考えた素振りの後、書記と会長も絡みに行くことに決めたそうで。煩く話す転校生を愉快そうに見つめて歩いていった。 ”おもしろくない”転校生に”おもしろい”生徒会が関わるだけでこんなにも”楽しく”なる。 あまりのつまらなさに駆け巡っていた、内蔵の気持ち悪さが抜けていく。 やっぱり俺の確信は間違っていないのだ。 誤認は解けなかったが、生徒会の奴ら全員が食堂に来るよう誘導して良かった。本当に得をした気分だ。乗ってくれた会計に感謝しなくては。 「…どうすればもっと楽しくなるかな、」 俺が役員と対立してみればどうだろう?学園は混乱しすごく面白いんじゃないか? この巨大な学園を転校生一人の存在で混乱させられる…なんていい道具なんだ転校生。 千を超える生徒を転校生を使うだけで混乱させられるなんて笑えてくる、最高じゃないか。 さあ、じゃあステップ1を始めなければ。 それもこれも「楽しさ」のため。 面白いものを、見つけていこう。
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