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「第1村人はっけーん!きーむーらくん!」
「はっけーん」
そう言って職員室へ向かう廊下で林先生が前を歩く木村を指さした。
木村は特に荷物も無く、暇そうな感じなのでちょうどいいだろう。この後一緒に休憩でもどうだ、と聞けば、目を輝かせて首をブンブン縦に振っていた。
「あと一人くらい欲しいなー、木村君誰か暇な人知らなーい?」
「暇な人…暇な人…あ、橋本先生がさっき本読んでましたよ。それと平井先生が寝てました、職員室で。」
「んー〜、憂さ晴らしに涼介起こすのも悪くないし、シンプルに橋本先生でもいい…木下君どっちがいい?」
ぐりんとこちらを向いて唐突に聞いてくる林先生に心臓がまろび出そうになる。
「急にこっち見ないで下さいなんかグロい…橋本先生を誘いません?」
答えは1つ。今日1日で何度平井先生の着信ボタンを押したことか。どうせ暫く話すことになるだろうから必要以上に時間を奪う必要も無い。
と、隣の木村が安心したように息を吐いた。
「木村お前、平井先生のことそんな苦手かよ」
「涼介嫌われてやーんの、プークスクス」
「いや違いますって誤解生むんでやめてくださいマジで!!」
じゃあなんで?と聞くように林先生が目を向ければ、木村は気まずそうに話した。
「いやあ、正直社会の時間で結構会うし大分な圧をかけられてるんで今日はもう……」
なんという利害の一致。
じゃあ仕方ないか、怖い涼介が悪いね。と言って橋本先生のいるという所へ歩き始めた林先生についていきながら、木村に聞く。
「な、木村。お前2、3年の社会見てるよな?」
「見てますよ、どうかしたんですか?」
「生徒会のやつらの様子を教えて欲しくて。なんとなくの性格とかさ。」
木村は少し唸って考えたあと、口を開いた。
「まあ出てる回数も少ないんで詳しくは分かりませんけど…変わってるけど根はいい生徒だと思いますよ。変わってるけど。」
変わってるけどを2回繰り返したということは、本当に変わってるんだろう。
どう変わっているのかも聞いたが、言葉に表せないと答えられ、そうこうしている内に橋本先生を林先生が誘い終わって合流していた。
変なところで仕事が早い林浩太郎。
テストの採点は遅い。
「はーあ!全くあの子達ったら!副会長達も喜ぶと思って持ってったのになあ!」
教師の休憩室に入り、林先生がお菓子の箱を開けて机に置いた。中は数種類の団子の詰め合わせ。それも高いところの。
この林先生というのは、何も考えてないように見えて意外とよく人を見て、よく考えていたりする。
例えば、これ。生徒たちの間で”なんとなく”のイメージで(他の役員が好きなのと家柄の理由もあるが)紅茶が好きとされていた副会長が、本当は和菓子などが好きなのにいち早く気づいたのはこの人だ。
いやしょうもないと思う人も思うかもしれないが、人に気づいて貰えるというのは案外、嬉しいものなのだ。
実際、この人がこれを”生徒会”に差し入れようと思ったのも、件の食堂事件を知った上で、なのだろう。それを周りに感じさせようとしないのもこの人らしい。
「わぁこれ、老舗の高いところのですよね?確かに柊くん喜んだだろうなあ勿体ない…あ、お茶入れてきますね!お団子だし!」
そう言って、てくてくと歩きお茶を入れ始めた美しい御方(男性)は、先程から名前の出ている橋本先生。フルネームで橋本英人。
顎の少し下という男性にしては長めの認識を持たれる黒髪に、タレ目の紫の目だ。
ちなみに目について聞いてみたことがあるのだが、恥ずかしそうに、
「ひゃー!気付くよねそうだよね!紫好きだからカラコン入れちゃったんだよね!この学園OKらしかったから!」
とアセアセしながら答えてらっしゃった。
まあなんとも、穏やかで可愛らしい人種。
この学園の音楽教師である。
さあどうぞ、と橋本先生がお茶を置いて座ったのを起点に会話が始まる。それまでは、橋本先生が来るのを全員が無言であっち向いてホイをして待機していた。橋本先生はニコニコして見てた。見られてた。恥ずかしい。
「そういえば、もうすぐ新歓だねえ」
モゴモゴと団子を頬張る林先生が零せば、愚痴などが漏れ出す。
「あー新歓、3年目にしてもう面倒臭いんですけど。いやもう楽しいには楽しいでしょうけど規模が」
と木村が言えば、橋本先生が少し眉を下げて笑う。
「確かに、規模は流石野々瀬、って感じですよね。他の学園では体験出来ないでしょうし」
「うんうん、学生のうちのレアエクスピアリエンス、だね!面倒臭いからやめて欲しいわ!ほんとしんどい!笑えん!」
「今年は転校生くんも居るしな。波乱が多そうですよね」
木村が”転校生”というワードを出した途端、話題の矛先が突然俺に向く。もちろん俺はさっきの会話に一言も参加せず団子を味わっていただけなのだが。
「本部ですか?まあ確かに波乱は起こるでしょうね。西田先生と平井先生もよく見ておく感じの雰囲気でしたけど。」
「龍くんが一日目にしてそんなに気にかけるって相当なんだね…音楽の授業心配だなぁ」
あまり知られていないが、西田先生と橋本先生と井原先生は幼馴染らしい。
なぜ揃いも揃ってここに勤めたのか甚だ疑問であるが、言い出しっぺは西田先生らしい。
1番予想外すぎて初めて聞いた時吹いた。
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