萬緑五月

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「あ、聞きたかったんですけど」 また木村が話を切り出す。 「結局今年の新歓はまた鬼ごっこなんですかね?結構近い…っていうか来週ですよね?」 「確かにそうですね」 「なんか今年はけっこ〜悩んでるみたいだよ?あと分裂してるのもあるかもね」 「ああ、例の……」 と、話が早々に食堂事件へと移り変わる。 「とんでも無いことしちゃったねぇ転校生の……本部君!」 「心配ですね…本部君、無事でいられるといいんですけど」 「一日目でこんなに頭抱えるとは教師全員思って無かったんですけど」 「まだ転校生先がうちのクラスで良かったろ」 全員が俺の言葉に深く頷いたところで、そろそろお開きにしなきゃね、と林先生が切り出す。丁度団子達も消え失せた所だったので、素早く片付けをして部屋を出た。 「あーあ、あと1日も平日があるのか面倒臭い……あー面倒臭い。なんで僕今日こんなに動いたんだろ…」 「あらら、林くんの電池がもうすぐ切れちゃいますね…」 「置いといてもいんじゃないですかね」 「木下くん僕先輩、先輩ね。」 木村が後ろで大爆笑しているのをBGMに職員室へ向かい、各々解散。 俺は仕事もなかったためそのまま必要な荷物を回収し、存在を忘れて採点していなかった2Sの小テストをカバンに突っ込んで職員寮へ向かった。 ─── 少し暗くなってきた校舎の横を通り過ぎ、生徒寮に比べ近めに作られた職員寮へ足を進める。晩飯何にしようか、何か買っていたっけな、と冷蔵庫と棚の中身を頭から引っ張りだそうと捻るが、全く出てこない。 歩きざま、俺が来た時と比べて随分と綺麗になった中庭の花壇を眺めて美化委員長の顔を思い出す。かなり荒れていた所をここまで変えたのだから我が生徒ながら素晴らしい、と心の中で教師らしく生徒を讃え、溜息。 本部の件で、思ったよりも体力を使っていたらしい。帰ったら先に風呂に入ってしまおう、と思い直し足を早くすれば、割とあっという間に到着する。 カードを翳し、ドアを開く。 いつもエンカウント3秒で捕まる守衛さんは不在だったらしい為、素早く部屋に戻ることが出来た。 着ていた少し高いジャケットを脱ぎソファの背もたれに掛け、首元を少し緩めてソファに沈み込む。長く息を吐いて、ソファの傍の窓へと手を掛けてスライドする。 そのまま机の上のライターを取ろうとして、はたと止まった。 煙草は止められていたんだったか。 「……、はー…」 そのまま伸ばした手を引っ込め、星を見るなんてロマンチックな気分にもなれず開けた窓を閉める。5月になったとはいえ、今日は風が冷たかった。 頭をガシガシと掻いて立ち上がり、風呂場へと向かう。 ライターは引き出しの奥にしまい、適当に掛けたジャケットもハンガーへと丁寧にかければ、物の少ない殺風景な部屋が完成した。 さっさとシャワーを済ませ、採点に取り掛かる。まだ夜も更けていないため、晩飯は後でいいだろう。 ○、○、‪╳、○。 模範解答と比べながら、テストを捲る。 文系科目である社会の小テストであったため、文系を苦手とする原田の答えが的外れというより諦めのボケで口角が上がる。 こいつマジで。 その次、次……と、番号順に採点を終わらせてペンを置く。平均点は70前半と、かなり高い方だと感じる。自身の担当する生徒達がいい点を取ると、やはり喜びは感じるもので。 感慨深く長時間ボケっとする訳でもないが、晩御飯は美味しかった。 ────────────── 『これから、新入生歓迎会を開催致します。』 広いグラウンドに、地面が揺れるような歓声が響いた。 2日間が、始まる。 ──
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