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「「「完成だーーーー!!!」」」
大体のクラステントからカレー独特の香りがただよってきた頃、苦労はありながらも1年S組も本日の昼食を完成されることが出来た。
「う、うまそう……」
「早く食おーぜ!」
「スプーン出せ!」
とまたわちゃわちゃと動き出す生徒達を見ながら、木下も大人しく腹を鳴らしていた。
「お前らー、俺の胃袋のために早く用意しろー」
「きのセンも手伝ってよ!!」
「すまん俺法律上手伝えねぇって決まってんだ」
「どこの法律だよ!」
あと敬語な、と付け加えようとしたがせっかくの新入生歓迎会。少しは羽目を外させてもいいだろうと口を閉じる。
そうして、賑やかな20+1人全員が席へ着いた。
「じゃ、給食委員が声掛け」
そう言うと、給食委員の生徒がパンと手を合わせる。それに見習って、クラス全員が手を合わせた。
「「「「いただきます!!!」」」」
一斉にかきこむ者、ゆっくり食べるものなど様々ながらも、全員がうめぇうめぇと声を上げながらカレーを食べ始める。
自分も食べようと木下がカレーを口に入れた瞬間、クラス全員の目が木下へ向いた。
なんだ、と思いながらも咀嚼を繰り返していれば、隣の快活な生徒がこちらを覗きこみながら、何かを求めているような顔をしていた。
1拍、2拍、3拍。
「…………美味い。」
「「ぃよっしゃああああああああ!!」」
突如湧き上がる歓声。なんだと狼狽していれば、田口が笑いながら説明してくれた。
「本部がきてから木下先生疲れてただろうし、食生活も掴めないからせめて美味いもん作ろうって話してたんすよ」
「お前ら……!」
「「「「先生……!」」」」
それぞれ嬉しそうな顔でこちらを見つめていることに多少驚く。
「俺は辛いの苦手だから甘口が良かった」
「は!?おい誰だ木下先生辛いもの好きそうって言ったやつ!!」
「皆だろみんな」
悔しがる生徒たちに思わず笑みがこぼれる。
眺めていると、生徒達がまたもや一斉にこちらを見た。
「ら、来年!来年も俺らのやつ食ってもらいますからね!!!」
「はは、そりゃあいいな。楽しみにしとくわ」
「お前ら全員料理練習するぞ!!」
他クラスがこちらを振り返る程の大声に、木下も思わず耳を塞ぐ。通りがかった山形に、程々にしろよという注意を受けそれぞれもう一度座り直す。
木下も、苦手な辛口カレーを食べるためにもう一度スプーンを握った。
────────
嵐の前の静けさ(などない)。
嵐の後は嵐。暴風で起こる被害は騒音。
「俺の分の飯ないのかよ!!!」
極度の辛味苦手に食べるのに多大な時間がかかった木下がちょうど食べ終わった頃。
通称1Sの嵐、本部が生徒会テントより帰還した。
「生徒会といたんじゃなかったのか?」
「晃也達には誘われたけど俺はクラスの友達と食べたかったからな!…って、お前ら食べ終わってんじゃん!!!」
木下の問いに対する答えが思ったよりも思ったよりという感じでクラスメイトは面食らった。が、予定的にモタモタする時間もないので素早く本部の分のカレーを盛り付けた。
「ありがとう!!いただきます!!」
そう言って手を合わせ、食べる様子をクラスの面々が囲んで見守る。というなんともシュールな光景だが、本部は時間のことを分かっているのかただ早食いなだけなのか、さっさと口へカレーを運んでいった。
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