萬緑五月─新歓開幕─

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ふと、食べている本部を眺めながら木下は思い出す。先日三宅へ”アンチ王道”の転校生の特徴を尋ねた時に送られてきたメール。 『アンチ王道のよく言われる特徴と言えば、マナーが悪い、声がデカい、不遜、みたいな感じじゃない?人間性の問題みたいな感じではよく言われてるよ。』 目の前の本部の食べ方を見る。特にマナーも悪くないし、お礼も言った。食べ方が汚い訳でもなければ、なんなら美しい食べ方をしている…と思う。 名門のここでは当たり前と言えばそうなのだが、本部遙真という生徒をもう少し、知らなければいけないと思った。 「ご馳走様でした!!!」 本部が食べ終わり、紙皿やらなんやらをゴミ袋へ入れれば昼食タイムは終了。 終わったクラスから、午後3時までの長いクラス自由時間となる。大半のクラスが海辺で遊ぶことになるのだが、1Sも例外なく満場一致の海だった。 「じゃあお前ら、注意点言ってくぞー」 周囲に集まった生徒たちを見回しながら、注意点を挙げる。 「まず、5月だから海では遊べないからな。泳いだりしないように。本部は泳げなくて残念だったな。」 本部が、目を見開いて(いるように見える顔で)固まる。篠目が横で笑いながら(多分)励ましていた。尚、篠目はバスに乗る前に泳ごうな!と誘われていた時から見越しており、反応を楽しもうとしていたのだろう。 思考がわかってきたのが1番恐ろしい。 閑話休題。 「次、生き物触ってもいいけど殺すなよ。特別に貸し切ってるって言っても一般の方々にも人気なところだ。他の時期に使う人の事を自分で考えろ。」 生徒達が頷く。 「次、絶対に怪我するな。まだ一日目だし俺の仕事が増える。他のクラスメイトが怪我しないようにお互い気ィ配れ。あとこれ破るとこのあとのが守れんくなる。」 生徒達がソワソワとし出す。 こういうところは普通に男子高校生だなと口角を上げて、最後の注意事項を読み上げる。 「最後…せっかくの新入生歓迎会だ、思いっきり楽しめ。」 「「「「うおおおおおお!!!」」」」 ジャージを着た生徒達が、勢いよく砂浜へ駆け出した。 さて砂浜で眺めていようかと傍の塀へ寄りかかっていれば、何人かの1S生徒達が木下の手を引いた。 「何他人事顔してんすか!!先生も遊ぶんすよ!!」 「いや、俺は……」 と、木下の背中を押す者が1人。 「行ってこい、お前は行った方がいいだろ?」 「…平井先生…はぁ、分かったよほら、行くんだろ」 現時点で木下の”事情”を知る数少ない先輩である平井に言われれば、行かない訳にもいかず。 後でほかの先生達にいじられることを覚悟して、木下も砂浜へ踏み出した。 生徒達とこの砂浜を踏むのも、もう最後だ。 精一杯楽しんでやろうと、木下は余計な考えをはじいた。
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