1167人が本棚に入れています
本棚に追加
「つっっっかれた……」
「お、老化か?早いな」
「一歳差のクセして………」
手を引かれ、生徒と共に楽しんだ代償に、20後半の木下は疲れてテントの椅子に座っていた。
そしてその横に座って揶揄うように笑う平井は、疲れていてもなんだかんだ楽しそうにしていた木下に安心していた。
「良いじゃねぇかよ、カレーも美味そうだったし。俺んとこは米も焦げたしアホが砂糖入れたせいでゲロ甘だったんだぞ。」
「はは、ざまぁないっすね」
「あ?」
「そんな食い気味に怒らなくても」
反応が早すぎる平井に、いつか本当に斬られるかもしれないなと恐怖を覚えながら木下は息を吐く。ちなみに平井は剣道全国王者である。
「…で?カレーは美味かったのかよ?」
「辛かったっすね。3Sより遥かに美味いとは思いますけど」
「否めねぇ」
「ああ、あと」
平井が木下に目を向けると、木下は1Sのテントを眺めながら仕方が無さそうに微笑んでいた。
「…来年も俺らの食ってくれとかなんとか」
それに、平井はもう一度視線を戻して微かに口角を上げた。
「来年な…いいクラスだよほんとに。」
「いいでしょ、羨んでいいっすよ」
平井が指を構えたところで、近くのテントから声がかかる。
「2人ともーー!!いつまでそこでサボってんですか!木材運ぶの手伝って下さいよ!!」
木村の声に、木下は重なる疲労にため息をついて、平井は今行くと返事を返しながら立ち上がった。
この後は夜のキャンプファイヤーが待っている。同時に夕食となる食事も配られるので、教師は食事係と薪運搬係で別れているのだ。
無論、比較的力のある木下や平井は薪グループ。中々に大変な作業なので、サボるとほかの先生方から怒られるのは明々白々。
渋々だが行かなければ、と歩き始めた木下の前を歩いていた平井が振り返る。突然の行動に、木下も思わず固まった。
と、額に走る衝撃。
遅れてやってきたジンジンという痛みに、木下は悶絶した。
デコピンをした犯人であろう平井に目を向けると、平井は構えた指を解いて木下の頭にのせた。
「今は目の前のことに集中しろ。たったの2日間だ。」
そう言って先に歩いていってしまった平井に、木下は目を見開く。のも少しで、平井なりのエールを受け止めた木下は自らも早足で木材置き場の方へ足を運んだ。額は痛いのでいつかやり返そうと心に決めた。
──────────────
パチパチと心地の良い音を立てながら大きく燃え上がる炎に思わず目を奪われる。
それは他の教師達や大半の生徒が同じようで、皆が簡単の声を漏らしながら眩しい炎を見つめていた。
やはり、初めてではなくてもこういう物は気分が上がるものだなと目を細めていれば、ポケットにある携帯が振動し、メッセージが届いたのが分かった。
『今、新入生歓迎会なんだっけ?
どう?楽しい?感想聞かせてね。楽しみにしてます。』
続けて送られてきたワクワクスタンプに、思わず微笑む。
キャンプファイヤーの写真を撮ろうとし、手を止める。動画の方がいいかと思い直して数秒間動画を撮り、楽しんでいる旨のメッセージと共にトーク欄に送った。
他の2人の相手で忙しいのか、後でみるねというメッセージを確認して返事をしてから、携帯をもう一度ポケットに突っ込む。
生徒達は思い思いの相手との時間を過ごし始めたようで、二人でいる所が多く目立った。
最初のコメントを投稿しよう!