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新入生歓迎会、夜のキャンプファイヤーも無事終わり、生徒達が各々のグループメンバーとコテージへ帰っていく。
木下は、ここから教師のテントで待機をする役割のため、教師テントへと足を向けていた。教師たちは見回りや明日の準備等の役割に分かれているので、待機は比較的楽な方の仕事となっている。
「あ、木下くん来ましたよ」
「ん、…ああ、待機班だったな。」
全校生徒が泊まるこの場所はやはり敷地も広いので、教師が待機するテントはいくつかに別れている。各テントに3人程が待機することになっていて、俺が一緒のテントになったのは西田先生と橋本先生。
幼馴染2人と自分という特有の気まずさがありながらも、自分も6年勤めていればあまり気にならないためそのままテント内の椅子に腰かける。
「新入生歓迎会なのに深夜まで待機って、あんまり言えませんけど面倒臭いですよね〜」
「…生徒のためだ。我慢しろ。」
「龍くん偉いね〜よしよ〜し」
声をわざと猫なで声にして揶揄う橋本先生に吹き出す。背伸びして頭を撫でる橋本先生を不服そうに見下ろしながら、西田先生が手を払った。
「……やめろ、ほらお前も椅子に座れ」
「ふふ、分かりましたよ。」
「…木下、いつまで笑ってる」
机に突っ伏して窒息している木下を2人が見る。というシュールな時間がしばらく続いたあと、木下が顔を上げてため息をついた。
「あ゛ーーー、なんでも面白い……」
「疲れてるな」
「疲れてますねえ」
西田が疲れに窒息が重なってぐったりとしている木下にカフェオレを差し出す。
「…あ、すまない。甘い物は苦手か?」
自身が甘い物が好きなため、癖でカフェオレを入れてしまったことに焦る西田。
甘い物に好きも嫌いも湧かない木下は、大丈夫だと答えて温かいそれを受け取った。
「なんで俺が甘いもん苦手だと?」
「ああ、今日までずっとそう思ってたんだがな。違ったのか…入ってきた当初、甘いものを食べているイメージが無かったからだ。と言っても、関わる時間も少なかったからかもしれないが。」
「ああ、俺昔はタバコ吸ってたんであんまり合わなくて食べてなかっただけですね、それ」
「そうだっのか…タバコはやめたのか?」
「健康に悪いから?」
「まあはい、そんな感じっす」
6年前の記憶が蘇る。煙草をやめるきっかけになったこと。健康に悪いから長生きするためにやめろ、と怒った顔が懐かしい。
しばらく椅子に座って3人で談笑していると、1人の生徒がやってきた。
「あ、あの……」
「どうした、体調不良か?」
「あっいえ!そうではなくて、飲み物を、貰いに……」
慌てて否定してモジモジと喋る生徒の名前の文字を見ると、1年生ということが分かった。
もう一度顔を見る。
「ん、B組の野田か。やっぱ緊張するか?」
来ていた生徒は、1年B組の野田 雛瀬。
4月後半のどこかで安原あたりから名前を聞いたことがある。1Sの誰かの恋人だったか。
しかしそんなことはわざわざ聞くようなことでもないプライベートな話なので無視。
「はい…2年生の人、怖くて。3年生の人は優しいんですけど………」
班の名簿を確認すれば、確かに野田のグループの2年生のうちの1人が少しキツめの性格の生徒。根はいい奴なんだが。
口を開いたところで、先に西田先生が口を開いた。
「…そいつは、つんでれ、と言うやつだ。」
西田先生が言うにはあまりにも”おまいう”であり合わない単語に3人が呆ける。
と、広がったのは2人の爆笑。
「ぶっ…西田先生が!ツンデレ!!単語が合わないもここまで来ると!!」
「龍くんが!!ツンデレ!ふふ、ぷ、」
あまりの流れに困惑する生徒に、木下が声をかけた。
「まあ、落ち着くまでそこに座ってろ。飲み物は西田先生が用意するから。」
「おい」
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