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ゲーム開始前。
安原はふと、すれ違った別クラスの同級生を振り返った。
事情があるといえど、新入生歓迎会の一大イベント前に険しい顔をして、小声でコソコソ話すなんて珍しいと思った為だ。
ただ、今は本部が時の人になっている為安原も少し不安な気持ちで少し離れたところにいる2人の生徒を見る。王道学園モノの漫画では新入生歓迎会で大抵何かが起こることは重々承知しているため、特に。
「なあ、黒河、」
「あ?」
山道班でめんどくさいのか、不機嫌そうな黒河を振り返る。
「王道学園って新歓で大体何か起こるって言ったよな、俺…」
「言ってたな、昨日の夜9時に。」
「なんで覚えてんの?…まあいいや、アレ見てあれ」
そう言って安原が肘でグイグイと押すと、向こうの生徒達の様子に気付く。
「いやでも、まだそうとは分かんねぇだろ。可能性があるなら確で本部だけど。」
「まあそうなんだけどさ…」
と話してみても、見ず知らずで別グループの2人にできることは無く。
少し不穏な気配を残したまま、宝探しがスタートした。
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「……はぁ…」
クイズやミッションの為に燃える生徒達の波も過ぎ去って少し。大して疲れてはいないものの、木下は酷使した耳に悲鳴をあげたくなっていた。
「……っは、先生っ!!!」
そう呼ばれて山道の方を振り返れば、黒河と安原が汗だくでこちらへ走ってきていた。
怪訝に思い、小走りでそちらに近づく。
「何かあったか」
尋ねれば、2人は膝に手をついて息を落ち着かせる。
「も、本部がっ…ゲホッ、」
安原が噎せながら発した名前に、木下は眉をひそめた。何故なら、この新入生歓迎会で心配されていたことは、本部が問題を起こすことだけでは無い。被害者になる可能性だってあったからだ。
どちらも極力起こって欲しくないのだが。
「本部がどうした」
噎せた安原に変わって落ち着いてきた黒河が話し始める。
「山道歩いてる途中に、本部の声が聞こえたんで、グループの人に話してちょっとその辺見てたんです。そしたら、体格デカいヤツらに気絶させられてるの見て…」
それで、と安原が話し始める。
「さすがに俺らだけが突っ込んでも二次被害なんで、先輩方に説明してから走ってきたんです。ただ、焦ってきたんで場所が分かんなくて…」
話を聞いて、考える。
続けられた説明では、安原達のグループの先輩達にはゲームを続けて欲しいと言ったらしい。景品はグループで共有なのと、2年生もこのゲームは初体験だったため、できるだけ邪魔はしたくなかったらしい。
「…本来なら、その先輩方に連絡入れてもらって2人で尾行するのが望ましい行動なんだが…」
2人が俯く。
「だが、お前らの行動は正しい。模範と違っても、お前らだからこそ出来る判断だったと思う。不安だったろ、頑張ったな。あとは俺がやるから。」
顔を上げた2人の頭にポンと手を置いて、グループの元へ戻るよう促す。
2人はゆっくりと頷き、回復したのか小走りで戻って行った。若いな。
それを見送ったあと、携帯を取り出す。
風紀に連絡しなければ。
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