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「あれれ、木下?」
声が聞こえて、はっと目を覚ます。
今何時だ?何分寝たんだ?
「えっ無視ー?酷くないー?」
こいつの声は心が穢れたやつにだけ聴こえる。つまり俺には聞こえん、以上。
「木下と理事長で同人誌描くけどいい?」
「なんだよ颯馬」
鳥肌のオンパレードのトリガーを引きそうな単語を聞いて振り返り返事をする。
満面の笑みを浮かべて声をかけ的こいつの名前は三宅 颯馬。1A担任の国語教師で、まあ俺と同期である。この学校に就職してからの6年来の仲だ。
こいつもヒエラルキーは上で、ミルクティー色の癖毛の髪とそれより少し濃い色の目をしている。生徒からは中性的な顔で騒がれてはいるが、仲良くなって話してみると割と普通のノリのいい男子という印象。ただしうざい。うるさい。そして腐男子である。
「なんだよって…起こしてあげたじゃん?感謝の言葉は?はい、せーの」
「しばきまわすぞ」
「怖すぎでしょやめやがれください!」
泣き真似を始めた颯馬から目を背けて時計を見る、と30分寝ていたことが発覚した。
5日前に風紀の顧問から目をつけられたばかりでこれである。
「て、もう始業過ぎてんのかよ。」
「うん、8:30からで今は8:40。10分過ぎてるけどどうする?」
「どうもこうも歩いと行くけどな?どうせ5分もかからねぇし。それよかお前自分のクラスどうしたんだよ」
「急いでいかないその神経に痺れる憧れるぅ!なんか俺のクラスは今日は他の人がやるらしいんだよね」
「へー、別に新任なわけでもねえのに珍しいな」
「なんでも、理事長からの頼みらしいよ。俺としては仕事減っていいしこの時期に理事長が絡むとなると腐男子として見過ごせ……ごほん、はよいけば?」
「おうよ、しょうもないこと言ってるけどこの前漫研の奴らがテメェのR18描いてたぞ、喜べよじゃあな」
2日前に見た光景を思い出しながら職員室を出ると、ゆったり閉まるドアの隙間からアイツの悲鳴が聞こえた気がし…聞こえた。
──── ── ─
「よーやく着いたな…」
もう慣れたが無駄にデカい校舎を急ぐこと無く歩き数分。3階1Sに辿り着いた。そのまま足を止めて深呼吸をする訳もなく、ガラリと扉を開ける、とその瞬間。
待っていましたとばかりに歓声のバーゲンセール。俺は多分靴下かなんかかね
「きゃああ!木下先生ー!」
「今日も素敵です!抱いてくださあい!」
「男前抱かせろー!」
「歌舞伎町から学校へようこそ!今夜の御相手のお名前はー?」
「ホスト教師待ってたよー!」
「テメェくんのおせぇんだよはよ来いや!」
改めて、こいつらうるせぇ。
しかしまあ可愛い教え子に変わりはない。教師を選んだことで分かるが、子供は好きだ。
誰だよ歌舞伎町やらホストっつったやつ。行ったことねぇしやった事ねぇよ。こちとらここに直ぐ就職してんだよ。あと最後はツンデレとしか思えん。
「はいはーい、君らの担任が来たぞー座りやがれ〜」
声をかけると、なんだかんだ仲のいいS組はやいのやいのと席に着く。
正直このクラスは楽しくて仕方がない。学校ってこういう所がいいよなあとしみじみと感じる。
「はい出欠とりまーす。居ないやつ手挙げろー、」
「はいはいホスティー!居ない人は手挙げれないと思いまーす」
「はい手挙げたね、安原以外全員いるな〜」
「おっとぉちょっと待ってくださいホスティーや」
「お前らー、今日の社会の問題安原が答えるからなー」
「「「「っしゃあ!」」」」
「おいお前ら!少しは庇護しようとする努力をしようよ!」
うるさいヤツは安原 翔太。まあクラスのムードメーカーで、軽口叩いてもおもろい、集中攻撃してもおもろい、叩けば鳴るおもちゃだ。いや生徒なんだけどもな。
ちなみに先程の発言に対してクラスのあちこちから
「お前を犠牲にして僕らは助かるから」
「元気でな、今日の昼飯まで覚えとく。」
「まーた〜会ーう〜日まで〜〜」
「おめぇ勇者だ、名前なんだっけ?」
「安なんちゃかさんww」
という声があがり、キノコを生やしている。
なんとも賑やかなクラスだと思う。S組担任でよかった。
ちなみにA組…颯馬の担任しているクラスはこの学園の特徴盛り合わせましたいっちょ上がりィ!みたいなクラスだ。社会で行ってるが結構怖いぞ、あのクラスの平凡立場は苦労しそうだ。
このクラスは比較的いいと思う。平凡だからと言って区別はしてるが差別はないのが見て取れるし。何しろ仲がいい。
安原が騒いでいるのを眺めていると、HRの終了のチャイムが響いた。
「おし、1時間目から社会だな〜おめーら準備しとけよ。連絡は特に無いからなー」
「「「はーい」」」
ああ言っていても、安原は1年の中なら15番には入るから問題は無いだろう。
と問題の答えを確認していると、教卓の前に眼鏡をかけた男子生徒が近づいてきた。
「木下先生、少し聞きたいことがあるんですけど。」
「おーなんだ森本」
質問のために来たのは森本 新(あらた)で、このクラスの学級委員長だ。眼鏡の奥の黒目は少しつり気味で、クラスでも信頼の厚い生徒だ。ちなみに俺も頼りにしている、色々と。
「転校生でも来るんですか?このクラス。黒河君の隣に空いてる席あるじゃないですか。しかもさっきスーツの男の人が見に来たんですよ。」
「俺が寝t…いない間に見に来てたのか、まあ空席があるってことは来るのかもなあ」
この会話に食いつくやつが1人。
「えっねえねえ転校生ってどういうことですか!kwsk!入学して1ヶ月!人生最大の望みが叶えられようとしています!で!?先生!転校生のこと聞いた!?」
Yes、安原翔太。
腐男子のうるささは過去6年で嫌という程目にしているので特に何も思わん。
毎年毎年同じような奴がいるのにも驚きだな。
「聞いてねぇし知らねぇし敬語使え馬鹿野郎」
「酷いがそんなの今の俺には効かぬ!こういうのは唐突なことが多いから早速準備に取り掛からないとぐ腐腐……い゛っだい゛!!」
マシンガントークの止まらない暴走機関車、安原ショータスになっていたのを止めた英雄は先程名前の出た黒河。フルネームで黒河真斗。名前通りといじる訳では無いが、癖のない真っ黒な髪と同じ真っ黒な眼。外部生として注目を集めたこともあるが、規模のデカい親衛隊を持っている。
ちなみにこんなんでも安原も親衛隊…という名の同士の集まりらしいが、名目上親衛隊を持っている。
ちなみに黒河は一昨日と昨日の2日間体調を崩して休んでいたはず。
「おー黒河。体調は治ったのか」
「お陰様で。飲みもんとかありがとうございました。」
「えっえっ何その2人、俺そんな話聞いてないよ真斗ぉ!そんな萌え詰め合わせのハッピーセットチャンスがあったなら教えてよ!」
「馬鹿、教えるわけねぇだろお前。んで先生には敬語使えや。」
「そうだぞ安原、次からお前パシらせるからなからな。とりあえずお前ら授業始まるから席着けや」
「うす」「はい」「へーい」
ちなみに俺はあいつの部屋まで昼飯の飲みもんと食べ物をコンビニから調達してやっただけだ。しかし尚も目を輝かせて俺と黒河を交互に見つめてくる安原には無茶ぶり問題を当てようと思う。
少し教師用教科書に目を落としたところで、平凡なチャイムが鳴り響いた。
「おーし、授業始めるぞ〜」
「起立、礼!」
「「「おねがいしまーす!」」」
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