鵜飼六月

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1つ扉を開けて、中の人物に声をかける。 「南波さん、悪いんすけど個室使っていいすか?」 「構わねぇぞ、って、珍しい客だな…生徒史上初か?」 カウンターにもたれかかっていた南波は、木下の後ろについている人物を見ては目を見開いた。 まあそんな事情に踏み込むべきではないと即判断し、副会長さんに礼をして個室へ案内する。何も無いことは分かりきっているのだが、学園が学園のため何もするなよ、とだけ言ってシェフのもとへ向かった。 初めての場所にキョロキョロとし、困惑していた柊はハッと我に返る。 「あの、ここは?」 「職員用の食堂。いい所だろ?多分生徒で入ったのは副会長さんが初めてだな」 「えっ良かったんですか?」 多分いいだろ、と笑った木下は続ける。 「まあ生徒で知ってる奴も中々いないしな。生徒会と風紀にも知らされてない。悪用とかされたら困るし、どこから漏れるか分からねぇしな。ほら、心当たりあんだろ」 そう言われて、柊は思わず自身の仕事仲間とクソマリモを思い浮かべる。 確かに、アイツらに教えるのは得策ではない。漠然とそう感じた。 そこへ、南波がスイーツ等をのせた皿と、飲み物を運んでくる。 学生用のメニューとは違うものの数々に、柊は目を輝かせた。 「美味しそう……」 南波は思わず笑いをこぼした。 「喜んでくれて何よりだよ。んじゃごゆっくり〜」 照れながらもぺこり、と頭を下げた副会長にひらひらと手を振りながら去る背中を見送って、木下がコーヒーを1口飲んだ。 目の前に座る副会長の手元に目をやる。 普段は紅茶を嗜んでいるイメージなのだが、息で冷ましながら緑茶を飲んでいる。 意外だなあ、なんて思っていれば、副会長が湯呑みを握る手に力を入れたのが分かった。 熱くないんか? 「あの…最近ストレスがすごくて…申し訳ないんですけど、すこし…愚痴を、聞いてくれますか?」 思わぬ頼みに驚きつつ頷けば、副会長はため息を吐いて話し始めた。 ───────────────── ───────────────── 私…俺は、もともと共学の学校へ通う予定だったんです。俺は男が好きでもなんでもありませんし、同級生に気になる女の子だっている普通の男子高校生でしたし。 いや別に、ここの人が普通じゃないって否定する訳では無いんですけど。 だからまあ、ハッキリとはしてませんでしたけど公立の共学校に行く予定だったんです。 親達もそれには賛成で、行きたい所に行かせてあげようって言ってくれてたんです、最初は。そう、最初はね。 ここで邪魔が入るんです、姉ですよ、姉。 どこで情報を手に入れたのか知りませんけど、母にここがどんな高校かを説明するって言って、語り出したんですよ、ええそりゃもう熱弁も熱弁で、俺が聞いても半分以上内容は分かりませんでしたけどね! そしたらどうなったと思います? 母がこの学校に行くの賛成って言い出しまして。俺はどこに行きたいかも詳しいこと決めてなかったので押しに負けたんです。 ここに来てわかりましたよ。 ああはいアイツらの餌食にされたんだなって。アイツら男同士の恋愛モノが好みらしいので小さい頃から巻き込まれてめんどくさかったんです。 馬鹿だね?そうだね?プロテインだね? …って感じですよね、俺もそう思いました。 勿論腹たってアイツらのことずっとBBAって呼んでるんですけどね。 …で、あれよあれよという間に勝手に生徒会役員にされて今現在ですよ!! 会長はムカつくし会計も意味分かんないしていうか全員意味わかんないし仕事は多いし!! 禿げろと!?俺に禿げさせるつもりか!? で、なんかそのうちどうでも良くなっちゃって。まあ狙われたり騒がれたりしますけど、親衛隊は悪意じゃないの分かってますしね。 そっから思考ぶっ飛びましたよ、ええ、もう楽しんだもん勝ちだろって。 それで、今はどれだけこの学園で楽しいことを起こせるかに尽力してる訳ですよ。 ──────────── そこまで言って、柊はふうと一息ついた。
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