萬緑五月

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「起立、礼!」 「「「ありがとうございましたー!」」」 授業終了。この後の二時間目は2Bだったが、向こうの担任の理由で社会が潰れた気がする。なら資料室兼休憩室辺りでゆっくりさせてもらおう。 そう思って、教室から出て歩いていると、ポケットに突っ込んでいた携帯が鳴った。 プライベートではなく、仕事用の方。 嫌な予感がする。 しかし、仕事用ということで無視するわけにもいかず、溜息をつきながらスマホのロックを外した。 届いていたのは、理事長からのメール。 2時間目が空いているなら、理事長室に来てくれ、というものだった。 正直最悪である。何故かって、あの理事長は少しというか大分……まあ、見てみりゃわかる。 要件と言っても、多分その空いてる席に関することだろう。三宅のクラスにも理事長の部下が来たみたいだしな。もしも森本や安原が言った通り転校生だったらその事だろう。あの理事長、適当なところがあるから明日来るよ〜とか言いそうだな。流石にそれは無いとは信じているけども。 にしても、転校生という可能性は低い気もする。空いてる席と言っても、何か別の研修やらなんやらという可能性も無きにしも非ずだ。 というか、このとち狂った学園に転校しようと思う精神が先ずわからん。もっといい共学やらなんやらあっただろうに。まあそれ程の理由があるんだろうか。 ちなみにこの間にも理事長室は近づいている。だんだん俺の足も重くなっていく。 ああ面倒臭い。正直理事長室に行くこの道のりが1番めんどくさかったりする。 と、理事長室がある棟に入る渡り廊下で、見覚えのある後ろ姿を発見。 「よう裕翔」 「ん?…あ、理久か。今日もHR遅れたんだってな!お前も懲りねぇな〜」 こいつは山形裕翔。三宅と同じで同期で、よく3人で酒を飲んだりする位には仲は良い。 まあノリが良くていいやつだ。 「6年間続いてんだ、プロフィールに特技として書いてもいいくらいだぜ?」 「まあお前のそんな所が生徒にウケてんだろうな〜、てかお前2時間目2Bじゃねぇのか?」 ちなみに裕翔もヒエラルキー上位で、短い赤茶の髪と同じ色の目。まあ快活な感じだ。 「お前も人気なのは変わりねぇだろ。授業は向こうの都合で潰れたんだよ。」 「そうなのか?2Bっていったら青野んとこだろ?あいつお前のこと大好きだから何がなんでも授業入れそうなのに」 「あいつが参加するわけじゃねぇんだからそれは関係ねぇだろ」 「この教室に少しでもDNAと吐いた息を残す〜とか言ってそうだぜ?」 「流石にねえだろ…いや、あながち有りそうだな。」 「だろ?次会った時のこと教えろよ、なんて言ってたか。」 「任せろ、一字一句違わず教えてやるよ」 「おーうれしいね〜」 しばらく話して、裕翔は次が授業なのか笑いながら走ってった。あの調子だと恐らく生徒指導とかに見つかるな、あいつ。 生活指導の先生は優しいんだけどなあ、堅物だからちょっと怖がられてるのが惜しいよな。知らんけども。 現実逃避も虚しく、現在理事長室前。 帰りてぇ。切実に回れ右して帰りてぇ。 だがしかし…期限を損ねると14倍は面倒くさくなるので行くしかねぇ。 震える手でドアをノック。 「理事長、1年主任の木下です。」 すると、中からドタバタと言う音。 ……何故かは何となく予想できる。 秘書と取っ組みa「おまたせしました、どうぞお入りください」…出てきたのは秘書の辻宮さん…つまり、 選ばれたのは、辻宮でした。ってことか。 「ほら、渡部理事長。木下先生が来たんですからとっとと起き上がっては如何です?そんなとこでいつまでも寝っ転がってないで…」 「残念ながらこの体制になった原因は君だよ、辻宮君?足がつったんだが。」 「たかがあんなことでつるって、普段から運動が足りないのでは?」 「確かに運動不足だ…ということで木下君、今夜僕と一緒に運動しないかい?」 「しn…やべ、間違えました、大変丁重にお断りさせていただきます」 「聞こえてる聞こえてる、抑えきれてないよ4分の3文字言ってるんだから」 「どうでもいいので早く起きてください理事長、床が汚れます」 「とりあえず泣いてくるよ」 「じゃあ帰っていいすか?」 「うーんダメだねぇ起き上がるよ」 よっこいせ、と言って起き上がった理事長の名は渡部明石。落ち着いた茶髪茶目の明るく快活な変態である。 ここに就職してから6年間、会う度に今夜のお誘いである。よくもまあそんなに続くもんだ。 そして渡部理事長のメンタルを粉砕玉砕大喝采…大喝采はしていないが、前2つを行っている肩まである黒髪と黒目の方が秘書の辻宮凜人さん。 まあ多分取っ組み合い…もとい9割9分で辻宮さんの一方的蹂躙をしていたということは理事長がなんかやったんだろうな。
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