萬緑五月

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この平井先生、俺がここに就職してから1番お世話になった先輩である。 つまり? 頭が上がらないということだ。 先輩は他にもいるのだが、特にこの人には頭が上がらないしなんなら擦り付けてもいいくらいだ。どこにって?床だよ。 目の前の先輩は目を泳がせる俺に口の片端を上げてニヤリと笑う。 「ふうん?聞く気がねぇのか?なら……」 「大丈夫です、すぐに片付けますんで」 「あとお前、遅刻もどうにかしろよ。西田が目ェつけてたぞ」 「マジかよ…気をつけます」 ちなみに平井先生が言った西田先生とは生徒指導の先生。多分最初の方に言った先生だ。 「まあ直らねぇだろうけどな。お前のことだし…あ、そういえばお前んとこに転校生が来るらしいな?」 風紀顧問だから情報を手に入れたのか、思い出した疑問を尋ねてきた。まあ前日に情報が行き渡ってないのも中々にまずいんだが。 「あ〜そうですね。さっき理事長室行って説明されたとこですよ。」 「ほーん。ま、俺に迷惑かからねえようにしてくれよ?風紀顧問って忙しいんだぜ。」 「善処しまーす」 「迷惑かけたら抱き潰すからな」 「全身全霊全力で努力します」 先輩が吐いたトンデモな動詞に面倒くささで埋め尽くされていた脳内をマッハ20で切り替える。まずい、この人ならやりかねん。 「可愛くねぇなあお前」 「かっこいいんだから当たり前っと…」 生意気にも答えてみれば、はあ〜とわざとらしく息をついて職員室を出てった平井先生の背中を見送って机に向き直る。 とりあえず転校生に関係する書類と荷物を端にまとめて次の授業の教材を持ち直す。 あ、小テストの採点してねぇ…まあいいや。 今日は水曜日で週が始まってからしばらく経っているので生徒からブーイングが来そうなものだが、来ないのがこの学園だ。何故かっていうとこのお顔。 ちなみに俺は共学の高校だったんだが、そこのおじちゃん先生はテスト後1週間は絶体にテストが返ってこないことで有名だった。 ただその間は授業の時に映画見せてくれた。 閑話休題。 次の授業は……と、2のS。 うわー面倒くさ…生徒会がいやがるじゃねぇか。しかも会計とか庶務だったかその辺。 何がめんどくさいかと言うとあいつらの一挙一動に生徒の集中が削がれるのがめんどくさい。授業が止まる事程腹立つことはねぇ。 こっちが教えてんだから教えてもらう側は集中しろと毎回思ってしまうのは仕方ないんではなかろうか。教師として間違ってはないと思ふ。 2年以降は1年に比べて同性愛者…ゲイが増える傾向にあるからそれもあるのだろう、とにかく授業しにくい。 まあもういいや、とりあえず移動しよ。 2Sの出欠掲示を見てみれば、3限は生徒会の奴らが授業免除権を使って出ないことが判明。俺の気分は一気に上がった。 今日の晩飯に何を食うかを頭の中で考えながら2Sへ歩いていれば、前に歩いている颯馬を発見。 「おう颯馬、次の授業どこだよ」 「おっす木下すぁん、次は2Bだぜ」 「お、2Bか…あそこ授業楽しいよな」 2Bは比較的成績優秀だが他の観点でポイントを貰えなかった奴が集まるため、普通に普通な普通の授業が出来る。そのため、ほかの先生からも2Bは評価が高い…というか、そういうクラスはどこも先生達から好かれている。今年は例年とは違い1Sもそうだったのが意外らしいが。 まあ確かに、さっき言った2Sを見てみれば1Sは珍しいもんだなと感じる。 「ね、だから俺今気分絶好調。木下は2Sでしょ?今日生徒会は?」 「ラッキーなことにいねぇんだよ。てことで俺も今幸せを噛み締めてる。」 「ふーん、居れば面白かったのに…てのは冗談ですはい、じゃ俺そろそろ行くわ」 腹たったので睨めば慌てて撤回してそそくさと逃げる颯馬を鼻で笑い、少し先の2Sへと向かった。
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