萬緑五月

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さて、本日午前最後の授業となる4限は1A。 颯馬の担任クラスだ。クラスの特徴としては最初も言ったが親衛隊とかのチワワが多かったりする。 恐らく、”親衛隊はSに入れない”という理由が大きなものだろうが。 学園の意味不明ルールについて考えながら教室へと入る。 「ちわ〜、元気か〜」 「「「「こんにちは〜!」」」」 元気らしい。 教材を置き、教卓前の椅子に座る。 流石、椅子の座り心地は完璧だ。 1Sは2Sと違い、親衛隊に入隊しているが、優秀だという生徒が多い。反対に、2Sの生徒は親衛隊ではないけど美形が好きなだけの奴らが多い。勿論、入りたかったが我慢している、という生徒もいるだろうけど。 正直、俺は親衛隊に入る理由がよく分からないまま6年間働いてきた。特に生徒会。 何故って?生徒会の奴ら、生意気にも殆ど親衛隊嫌ってんだよ。クソガキどもめ。 分からんなりに親衛隊も不器用なだけだと感じるんだから、アイツらも気づけるはずなのにな。 一応、アイツらが中一ん時に交流はあった。そん時から生意気だったから昔の話など知る由もないけども。 「あの…先生」 考え事をしていると、1人の生徒が教卓まで来ていた。 「S組に、転校生が来るってホントですか?友達が言ってて。」 「あー、、まあ、どうだろうな?」 「えっなんで教えてくれないの!?」 この高めの声で話す生徒は佐藤 充希。所謂チワワと言うやつで、生徒会長親衛隊だと聞いたことがある。 「敬語使えよ、敬語。」 「あ゛っ…でも、先生のその言い方は多分来ますよね!うん!」 「そうだといいなあ?…と、そういえば今日百瀬は休みなのか?」 百瀬…百瀬 暁。このクラスの学級委員長だ。 詳しくは今は言わんが、いつか分かる。 「さとるくんですか?今日は家の用事があるらしいですよ?寮長が外出許可の受理やってたので!」 「へぇ…珍しいな、あいつ仕事すんのか。」 俺の中の寮長のイメージなんて生徒連れ込んで盛ってるイメージしかない。 「僕もよく知りません!」 「おーそうかそうか、あと2分だぞ」 言えば、佐藤は「やばっ」と言いながら後ろの方の自分の席へと戻り、同じようなチワワの奴らとキャイキャイ話し始めた。 その後も、クラスのあちこちの雑談を聞き流しながらぼけーっと2分間過ごせば、4限の始業のチャイムが鳴った。 「うし、授業始めるぞ〜、委員長居ねぇのか。じゃあ…」 号令する生徒を決めようと教室を見回す。 お、良い奴いるじゃん。 「小原、お前やれ〜」 「俺すか?」 指名すると、明るい黄色の目を少し見開き、聞き返してきたのは小原 慎二。体育会系の盛り上げ役のような奴で、親衛隊こそいないものの割と人気な生徒。こいつはとにかく声がデカい。時たま縫いたくなるほどデカい。 しかしまあ丁度いいだろ。 肯定の意を示して頷けば、向こうも分かったらしく頷いた。 そして小原が軽く息を吸い… 「きりぃぃぃつ!!!れぇい!!」 「「「「お、お願いしまぁす!」」」」 うーんうるせぇ。全窓が震えた。 まあこんな風にクラスの奴らも乗っかってでけぇ声出すから、団結させるのは得意だろうな。 見ろ、チワワもタジタジだぞ。 いいねえ、といえばニコニコしながらガハハと笑っていた。笑い声もうるせぇ。 「気を取り直して、じゃあ前の復習問題を…さっき敬語使わなかったから佐藤解け」 「う゛…根に持ってる……」 と言いつつも敬語を付けなかったことは反省してるのか、唸りながら黒板に白い文字を書いていく。 うん、悪くないな…正答率8、9割か…… 「佐藤、ここの時代苦手じゃ無かったか?」 「失礼な!確かに苦手だったけど…僕だって悔しくて勉強したの!」 その言葉に感心した。悔しくてっていうのがまたいいな。競争心はいいエネルギーだし。 「お前……偉いじゃねえか…」 「ふふーん!でしょ!えへへ…」 自慢げに腕を組みドヤ顔をかましてくる佐藤。さっきの言葉を訂正しようかと呆れた目を向ければ、「嘘だって!」と言いながら自分の席へと小走りで戻った。 ちなみにその後のこの時間は佐藤をめちゃくちゃ当てた。目が死んでた。 ちょうど今日の内容を終わらせ、教材を閉じたところで終業のチャイムが鳴り響く。 やっと午前が終わった。飯だ、飯。
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