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夜になるまで、おばあちゃんのおうちで過ごす。おばあちゃんは優しくも怖くもない。お母さんのお母さんだと聞いているけれど、あまり喋らない。私のことがあまり好きじゃないのかもしれない。おばあちゃんと一緒にいるのは嫌いじゃないけど、好きでもなかった。
夜の七時くらいになると、お母さんが迎えに来てくれる。お母さんはいつも疲れている。エリちゃんのお母さんみたいにきれいなワンピースも着ていないし、髪の毛も白髪が多い。そしてお母さんと二人でアパートに帰っても、うちにはお父さんはいなかった。私が生まれた頃に、お父さんは死んだのだそうだ。死んだという意味はちょっとよくわからないけれど、多分どこにもいないという意味なんだろう。
私は自分の宝箱に『月の雫』の青い瓶を隠した。誰にも見られちゃいけないことはわかっていた。おばあちゃんにも、お母さんにも、ここにはいないお父さんにも見せちゃいけないことがわかっていた。
でも、悪いことをしたなんて思っていない。エリちゃんのおうちはお金持ちだ。きっと香水だってたくさん持っている。『月の雫』だけが特別なわけじゃない。
エリちゃんは、次の日もその次の日も、『月の雫』のことは言わなかった。エリちゃんのお母さんに会っても、なにも言われなかった。ただエリちゃんのお母さんは私の頭を撫でて、「いちこちゃん、いい子ね」と言った。エリちゃんのお母さんはよくそうやって頭を撫でてくれる。でもそのとき、私はすごく怖くなって、もうエリちゃんのおうちには遊びに行かなかった。
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