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ええと、この字、なんて読むのかな。
エリちゃんが教えてくれた。あの字は『つきのしずく』って読むんだって。エリちゃんのお母さんが持っているきれいなきれいな手のひらサイズの青い瓶。『月の雫』という名前の香水なのだと言う。
「こうすいってなあに?」
「いい匂いのする水のことだよ」
ほら、かいでごらんよ。小さな青い瓶の、とっても小さな蓋を開けて、エリちゃんは私の鼻に近づけた。
まるでお花のような、ちょっと粉のような、私のお母さんが持っているお化粧品みたいな、不思議な匂いがした。なんだか、夜っぽい匂い。よくわからないけど、夜みたいな感じがする。月の雫と言われれば、本当にそんな雰囲気が漂っていた。
「こういうのって、いい匂いなの?」
エリちゃんは勝ち誇った表情で言った。
「世界中にたくさんある香水の中でね、凄く人気があるんだって。『小さな宝石』って言われてるんだって、お母さんが言ってたよ」
「そうなの?」
「月の雫、なんてさ。すごぉくオシャレな名前。私ね、大きくなったら、これお母さんから譲ってもらえることになってるんだ」
嬉しそうにエリちゃんは、ひそひそ声で内緒話をしてくる。お母さんから香水を譲ってもらえるなんて、お金持ちなんだなと思った。
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