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それからの毎日は酷かった。
酷かったとは、俺の心の中だけで、一条が仕事を放棄したり、周りから囲うように周囲に俺への気持ちをバラすとか、そう言った卑怯な手を使ったわけではなくて。
ただ毎日、毎日、俺に「好きだ、付き合って」と繰り返し。来る日も来る日も隙あらばキスをしようと俺の動向を伺っていた。
隣に座って仕事をしている関係上、逃げ回るには限界があって俺は少しずつ疲弊して行った。
それでも仕事を蔑ろにする事は出来なかったし指示を仰がなければならないのは上司よりも現場で一緒に作業する一条だったから必然的に毎日話をする生活に変わりはなかった。
「今日も可愛いな。修、どう?俺と付き合う気になった?」
「・・・なりません。」
「うーん、まだダメか。ま、今日もお前に言えたから良しとするか。」
ポンポンと俺の頭を撫でて、一条は椅子に座って作業を始めた。
こういう行為は照れる。
俺の気持ちを上手く汲み取ってくれるのはやはり年上だからだろうか。
一方的に押しているようで、俺が戸惑いを見せるとスッと一歩引いてくれる。
それが少しずつ物足りなさを感じるようになってきて困る。
少しだけ赤くなった頬を隠すように心持ち俯いて俺はディスプレイに向き直った。カチカチとキーボードを押す音が部屋の中に響いてあっという間に仕事モードへと変わる。
「ああ、修、そこはこっちのコマンドで。指示書、もう一度確認しておけよ。最後に間違ってプログラム書いてましたー、なんて事になったら俺泣いちゃうからな。」
「あ、はい分かりました。俺もそんな事になったら泣いちゃいます。」
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