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「はぁ?いやいや、待って、待って。一条さん、何言ってんですか?」
「だから、付き合おうって言ってるの。俺、ずっと修の事好きだったんだよね。気付かなかった?毎日アプローチしてたんだけど。」
「えっ?」
「言ってただろう。修、可愛い、大好きだって。」
そうね、言ってた。
いつの頃からか、一条さんは俺を見て『可愛い』というようになった。あの時は弟に勝手に切られた前髪があまりに短くて凹んでいたから慰める意味で言ってくれてるんだと思っていた。考えれば前髪が伸びて元に戻っても『可愛い』発言は無くならなかったなぁ、と冷静になると思い出す。
「修が困ってる時はすぐに助けてあげられるように隣の席はキープしてたし。修といつも話せるようにお前との間には何も物を置かないようにしてた。」
あ、はい。そうですね。
俺と一条の机はピッタリ隣合っていて、一条の机には物一つなく俺はそれを仕事の効率化によるものだと思っていた。
え、俺と少しでもくっつきたいからって。知らなかった・・・。
「いつも横を向くと修がいて、毎日抱き締めたくてしょうがなかったよ。」
背後から囁かれる言葉は耳からの距離が近いせいかゾワゾワと背筋を震わす。
少し低い声は所謂イケボで、悪戯するようかのように時折息が掠めて思わず声が出そう。
「な、修・・・。俺と付き合ってよ。いいだろ?」
ちゅぅ、っと耳にリップ音が響いて、一条が俺の耳にキスをしたのだと気付く。
「ふ・・・。」
ポッと灯った明かりのように俺の腹の奥が微かに熱を持った。
それでもやっぱり混乱した頭では返事なんかできなくて。俺は身を捩って一条の腕から逃れようとした。
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